本ページはプロモーションを含みます
「将来、判断能力が衰えたとき、財産の管理や介護の契約を信頼できる人に任せたい」——その願いを、元気なうちに形にしておけるのが任意後見契約です。結論から言うと、任意後見契約は公証役場で公正証書にして結び、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力が生じます。日本公証人連合会によると、公正証書の作成手数料は1契約1万3,000円が基本で、ほかに登記の費用などがかかります。この記事では、任意後見契約の始め方を、手順・費用・必要書類・注意点の順に、公的機関の資料をもとに解説します。
任意後見契約とは:自分で選んだ人に将来を託す契約
任意後見契約は、本人が、判断能力が不十分になったときの生活・療養看護・財産管理に関する事務を任せ、その事務について代理権を与える委任契約です(任意後見契約に関する法律2条)。誰に、何を任せるかを、本人と引き受ける人(任意後見受任者)の話し合いで決められるのが最大の特徴です。
| 項目 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 誰が後見人を決めるか | 本人が契約で選ぶ | 家庭裁判所が選ぶ(希望した人が選ばれるとは限らない) |
| 任せる内容 | 契約で決めた代理権の範囲 | 法律で定められた範囲 |
| 始めるタイミング | 判断能力があるうちに契約し、低下後に効力が生じる | 判断能力が低下した後に申し立てる |
| 監督 | 家庭裁判所が選ぶ任意後見監督人が監督する | 家庭裁判所が監督する(監督人が付くこともある) |
成年後見制度全体の違いや法定後見の費用は成年後見制度とはで解説しています。最高裁判所の統計では、2025年12月末時点の任意後見の利用者は2,833人で、成年後見制度全体(約26万人)のなかではまだ少数です。
任意後見契約の始め方:5つのステップ
ステップ1:任意後見人になってもらう人を決める
成人であれば、法律が定める不適格な事由(家庭裁判所で解任された人、破産者、本人に対して訴訟をした人など)がない限り、子・兄弟姉妹・甥姪・知人など、誰でも任意後見人にできます。身内に適任者がいない場合は、弁護士・司法書士・行政書士・社会福祉士などの専門家や、法人に依頼することもできます。
ステップ2:任せる内容(代理権の範囲)を話し合う
任意後見人の仕事は、大きく分けて財産の管理(預貯金や不動産の管理、年金の受け取り、税金や公共料金の支払いなど)と、介護や生活面の手配(要介護認定の申請、介護サービスや施設入所の契約、入院の手続きなど)です。日本公証人連合会は標準的な「代理権目録」を示していますが、「居住用不動産の処分は含まない」のように範囲を限ることもできます。なお、おむつ交換や掃除といった実際の介護(事実行為)は任意後見人の仕事に含まれません。
ステップ3:報酬を決める
任意後見人に報酬を払うかどうか、いくらにするかは、本人と受任者の話し合いで決めます。身内が引き受ける場合は無報酬とする例も多いとされています。一方、効力が生じた後に選ばれる任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決め、本人の財産から支払われます。
ステップ4:公証役場で公正証書にする
任意後見契約は、法律で公正証書によらなければならないと定められています(同法3条)。公証人が本人の意思と判断能力を確認し、内容を法律に沿って整えます。契約が結ばれると、公証人の嘱託により内容が法務局で登記され、後で任意後見人が「登記事項証明書」で代理権を証明できるようになります。公証役場に出向けない場合は、公証人に自宅や病院へ出張してもらうこともできます。
ステップ5:判断能力が低下したら、任意後見監督人の選任を申し立てる
本人の判断能力が不十分になったら、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者が、本人の住所地の家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます(同法4条)。本人以外が申し立てるときは、本人が意思を表示できない場合を除き、本人の同意が必要です。監督人が選ばれた時から契約の効力が生じ、受任者は「任意後見人」として仕事を始めます。最高裁判所の統計では、2025年の任意後見監督人選任の申立ては881件でした。
任意後見契約にかかる費用の目安
| 場面 | 費用(公表されている額) |
|---|---|
| 公正証書の作成手数料 | 1契約につき1万3,000円。証書の枚数が一定を超えると1枚ごとに300円加算 |
| 登記嘱託手数料 | 1,600円 |
| 法務局に納める収入印紙 | 2,600円 |
| その他 | 正本・謄本の作成手数料、書留郵便料。出張の場合は病床執務加算・日当・交通費 |
| 監督人選任の申立て(家庭裁判所) | 申立手数料の収入印紙800円、登記手数料の収入印紙1,400円、連絡用の郵便切手。鑑定が必要な場合は鑑定費用 |
公証役場の手数料は日本公証人連合会、申立ての費用は厚生労働省「成年後見はやわかり」の案内によります。任意後見と同時に財産管理等の委任契約も結ぶ場合や、受任者が複数の場合は、その分の手数料が加わります。効力が生じた後は、任意後見人の報酬(契約で定めた場合)と任意後見監督人の報酬が継続的にかかる点も見込んでおきましょう。
契約に必要な書類
- 本人:印鑑登録証明書と実印(または運転免許証・マイナンバーカードなど顔写真付きの身分証明書と認印か実印)、戸籍謄本または抄本、住民票
- 任意後見受任者:印鑑登録証明書と実印(または顔写真付きの身分証明書と認印か実印)、住民票。法人の場合は代表者の印鑑証明書・代表者印と資格証明書
印鑑登録証明書などは発行後3か月以内のものに限られます。事前に公証役場へ連絡し、内容の打ち合わせと必要書類を確認してから出向くとスムーズです。
他の契約と組み合わせて「切れ目」をなくす
任意後見は、判断能力が低下した後の備えです。体が不自由になったが判断能力はある、という時期には使えません。そのため日本公証人連合会は、任意後見契約と同時に「財産管理等委任契約」を結び、判断能力があるうちは委任契約で、低下後は任意後見に移る形(移行型)が実務上多いと紹介しています。
| 時期 | 主な備え |
|---|---|
| 元気なうち・体が不自由になったとき | 見守り契約、財産管理等委任契約、金融機関の代理人制度 |
| 判断能力が低下した後 | 任意後見契約、家族信託(信託した財産の管理) |
| 亡くなった後 | 遺言(財産の分け方)、死後事務委任契約(葬儀・各種解約など) |
任意後見人の仕事は本人が亡くなると終わるため、葬儀や遺品整理などは死後事務委任契約で、財産の分け方は公正証書遺言で備えるのが一般的です。不動産の売却や運用まで柔軟に任せたい場合は家族信託と比べてみましょう。どの備えを選ぶかは認知症になる前の相続対策で目的別に整理しています。
2026年の改正で任意後見はどう変わるか
2026年6月17日に成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」が成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度の部分は、公布から2年6か月以内に政令で定める日に施行されます。法務省の概要資料によると、任意後見については次のような見直しが行われます。
- 家庭裁判所が、明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるときは、監督人を選ばずに家庭裁判所が直接監督できる
- 法定後見(補助)の利用が始まっても、任意後見契約を続けられる
- 受任者が亡くなった場合などに備え、複数の受任者について効力を生じさせる順序を定められる
- 本人が公正証書で指定した人も、任意後見を始める申立てができる
施行日前に結んだ任意後見契約にも、原則として改正後の法律が適用されるとされています。施行までは現行の制度で手続きします。
よくある質問
任意後見契約は途中でやめられますか?
やめられます。任意後見監督人が選ばれる前は、公証人の認証を受けた書面で、本人・受任者のどちらからでもいつでも解除できます。監督人が選ばれた後は、正当な理由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除できます(同法9条)。
すでに物忘れがある親でも契約できますか?
認知症であることだけで直ちに契約できないわけではありません。公証人が本人や関係者の説明、医師の診断などを参考に、判断能力の有無を個別に判断します。判断能力がすでに不十分な場合は、法定後見を検討することになります。
契約したのに、誰も申立てをしないとどうなりますか?
現行法では、監督人の選任を申し立てない限り任意後見は始まりません。受任者や家族が本人の様子に気づけるよう、見守り契約を結ぶ、地域包括支援センターとつながっておくなどの工夫が大切です(見守りサービス・地域包括支援センター)。
まとめ:元気なうちに「誰に・何を」を決めて公正証書に
任意後見契約は、元気なうちに、将来の後見人と任せる内容を自分で決めておける制度です。受任者を決め、代理権の範囲と報酬を話し合い、公証役場で公正証書にします。費用は公正証書の手数料1万3,000円に登記の費用などが加わり、効力が生じた後は監督人の報酬もかかります。判断能力が低下したら家庭裁判所に監督人の選任を申し立て、そこから任意後見が始まります。財産管理等委任契約・遺言・死後事務委任契約と組み合わせ、2026年改正の施行時期も確認しながら備えましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の資料をもとにした一般的な解説です。手数料は公証人手数料令などにより改定されることがあります。統計は最高裁判所の概数です。契約の内容や判断能力の評価は個別の事情によって異なるため、公証役場・家庭裁判所・専門家にご確認ください。
日本公証人連合会「4 任意後見契約」https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow04
日本公証人連合会「12 手数料」https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12
厚生労働省「成年後見はやわかり 任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/optional_guardianship/
法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
法務省「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」https://www.moj.go.jp/content/001465481.pdf
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
e-Gov法令検索「任意後見契約に関する法律」第2条〜第4条・第9条 https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150






