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認知症などで判断能力が低下すると、預金の解約や施設との契約、遺産分割の話し合いを自分で進めることが難しくなります。そんなときに本人を法的に支えるのが成年後見制度です。結論から言うと、成年後見制度には判断能力が低下した後に家庭裁判所が支援者を選ぶ「法定後見」と、元気なうちに自分で支援者と内容を決めておく「任意後見」の2つがあります。さらに2026年6月には制度を大きく見直す改正法が成立しました。この記事では、裁判所・厚生労働省・法務省の資料をもとに、しくみ、費用、相続との関わり、改正のポイントを整理します。
成年後見制度とは:法定後見と任意後見の違い
| 項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 始まり | 判断能力が低下した後、家庭裁判所に申し立てる | 元気なうちに公正証書で契約し、判断能力が低下したら家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力が生じる |
| 支援する人 | 家庭裁判所が選ぶ | 自分で選んだ人(任意後見人) |
| 支援の内容 | 法律が定める範囲(類型ごとに異なる) | 契約で決めた範囲 |
| 監督 | 家庭裁判所(必要に応じて監督人) | 任意後見監督人 |
| 報酬 | 家庭裁判所が決め、本人の財産から支払う | 任意後見人は契約で決める。監督人は家庭裁判所が決めた額を本人の財産から |
すでに判断能力が低下している場合は法定後見、まだ元気なうちに将来へ備えるなら任意後見、というのが基本の考え方です。任意後見の具体的な始め方は任意後見契約の始め方で解説しています。
法定後見の3つの類型
現行の法定後見は、本人の判断能力の程度によって3つに分かれます(民法7条・11条・15条)。
| 類型 | 対象となる人(民法の表現) | 厚生労働省の説明 |
|---|---|---|
| 後見 | 事理を弁識する能力を欠く常況にある人 | 多くの手続・契約などを、ひとりで決めることがむずかしい方 |
| 保佐 | 事理を弁識する能力が著しく不十分な人 | 重要な手続・契約などを、ひとりで決めることに心配がある方 |
| 補助 | 事理を弁識する能力が不十分な人 | 重要な手続・契約の中で、ひとりで決めることに心配がある方 |
最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」によると、2025年(1〜12月)の申立件数は合計4万3159件(前年比約3.2%増)で、内訳は後見開始2万9233件、保佐開始9743件、補助開始3302件、任意後見監督人選任881件でした。2025年12月末時点の利用者は25万9901人で、任意後見は2833人にとどまります。
法定後見の申立ての流れと費用
誰が、どこに申し立てるか
後見開始の申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官などです(民法7条)。申立先は本人の住所地の家庭裁判所です。2025年の統計では、申立人は本人が約24.8%で最も多く、次いで市区町村長(約23.7%)、本人の子(約18.5%)でした。主な申立ての動機は、預貯金等の管理・解約(93.4%)、身上保護(74.2%)、介護保険契約(45.7%)、不動産の処分(36.3%)、相続手続(25.6%)です。
申立ての費用
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 連絡用の郵便切手 | 裁判所ごとに異なる |
| 鑑定費用 | 鑑定が必要な場合。2025年は鑑定の実施が全体の約3.4%で、費用は約85.8%の事件で10万円以下 |
このほか、戸籍謄本や住民票、診断書、登記されていないことの証明書などの取得費がかかります。審理期間は、2025年は約71.1%が2か月以内、約93.8%が4か月以内に終わっています。
後見人には誰が選ばれるか
後見人等は家庭裁判所が本人にとって適任と考える人を選ぶため、申立てのときに書いた候補者が選ばれるとは限りません。2025年に選ばれた後見人等のうち、親族は約16.4%、親族以外が約83.6%で、親族以外の内訳は司法書士1万1966件、弁護士8903件、社会福祉士7280件などでした。なお、申立書に親族が候補者として書かれていた事件は約19.7%でした。
後見が始まると何が変わるか
- 財産は後見人が管理する:成年後見人は本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しながら事務を行います(民法858条)
- 自宅の売却などには許可が必要:本人が住む建物や敷地を売る、貸す、抵当権を設定するなどには家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)
- 報酬がかかる:家庭裁判所は、後見人と本人の資力その他の事情によって、本人の財産から相当な報酬を与えることができます(民法862条)。専門職が選ばれると、報酬は後見が続く限りかかります
- やめたいときにやめられない:現行法では、後見・保佐は本人の判断能力が回復しない限り利用をやめられません。法務省も、利用の動機となった事務が終わっても続く点を見直しの理由に挙げています
財産を積極的に活用したい、家族に管理を任せたいといった希望がある場合は、元気なうちの家族信託や任意後見も選択肢になります(家族信託とは)。
相続との関わり:遺産分割に後見人が必要になるとき
相続人の中に認知症などで判断能力が十分でない人がいると、その人は遺産分割協議に有効に参加できません。この場合、その相続人のために成年後見人などを選んでもらい、後見人が本人に代わって協議に加わります。後見人は本人の利益を守る立場なので、本人に不利な分け方には応じにくいのが一般的です。
後見の申立てから選任までにも時間がかかるため、相続手続きの期限に影響することがあります。協議の進め方は遺産分割協議の進め方、協議書の作り方は遺産分割協議書の作り方を参考にしてください。また、本人が亡くなる前に預金が引き出せなくなる事態への備えは認知症になる前の相続対策でまとめています。
任意後見の費用と流れ
任意後見契約は公正証書で結ぶ必要があります(任意後見契約に関する法律3条)。日本公証人連合会によると、公正証書の作成手数料は1契約1万3000円、法務局に納める印紙代が2,600円、登記嘱託手数料が1,600円などです。判断能力が低下したら、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て(同法4条)、選任された時から任意後見人が仕事を始めます。
2026年の改正で成年後見制度はどう変わるか
2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度の見直し部分は、公布から2年6か月以内に政令で定める日に施行されます。法務省の概要資料による主な変更点は次のとおりです。
| 見直しの内容 | ポイント |
|---|---|
| 後見・保佐を廃止し、補助に一元化 | 本人の同意と必要性を要件に、必要な行為についてだけ代理権・同意権を与える。判断能力を欠く常況にある人は「特定補助」を選べる |
| 必要がなくなれば終了できる | 判断能力が回復していなくても、家庭裁判所が利用の必要がなくなったと認めれば終了できる |
| 交代しやすくなる | 本人の利益のために特に必要があるときに補助人を解任できる |
| 本人の意見の重視 | 選任時に考慮する要素の冒頭に「本人の意見」を規定。補助人に本人の意向の把握を義務づけ |
| 報酬の予測可能性 | 行った事務の内容などが報酬の考慮要素であることを明確化 |
| 任意後見の柔軟化 | 明らかに必要がないときは監督人を置かず家庭裁判所が直接監督できる。補助が始まっても任意後見契約が続けられる |
よくある質問
家族が後見人になることはできますか?
候補者として申立書に書くことはできますが、最終的には家庭裁判所が選びます。財産が多い、親族間に争いがあるといった事情があると、専門職が選ばれたり、監督人が付いたりすることがあります。
どこに相談すればいいですか?
厚生労働省の「成年後見はやわかり」で、お住まいの地域の権利擁護支援の相談窓口を探せます。市区町村の窓口や地域包括支援センターも入口になります(見守りサービス・地域包括支援センター)。
親の預金が凍結されたら、すぐ後見の申立てが必要ですか?
何のために手続きが必要かで判断します。後見は一度始まると現行法ではやめにくいので、金融機関に必要な手続きを確認し、専門家や相談窓口と相談してから決めましょう(高齢の親の財産管理)。
まとめ:成年後見は「いつ・誰が決めるか」で選ぶ
成年後見制度は、判断能力が低下した人の財産管理や契約を支える制度で、低下後に家庭裁判所が支援者を選ぶ法定後見と、元気なうちに自分で決めておく任意後見があります。申立ての実費は数千円からですが、鑑定や専門職の報酬がかかることもあり、相続では判断能力が十分でない相続人のために後見人が必要になる場面があります。2026年の改正で、必要な範囲・期間だけ使える制度へ変わる予定です。最新の制度を確認しながら、元気なうちに家族で備え方を話し合っておきましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の資料をもとにした一般的な解説です。統計は最高裁判所の概数で、今後訂正されることがあります。改正法の施行日は政令で定められます。具体的な手続きや判断は、家庭裁判所・相談窓口・専門家にご確認ください。
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
裁判所「後見開始の申立て」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_01/index.html
厚生労働省「成年後見はやわかり 法定後見制度とは(手続の流れ、費用)」https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/legal_guardianship/
厚生労働省「成年後見はやわかり 任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/optional_guardianship/
法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
法務省「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」https://www.moj.go.jp/content/001465481.pdf
日本公証人連合会「4 任意後見契約」https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow04
e-Gov法令検索「民法」第7条・第11条・第15条・第826条・第858条・第859条の3・第860条・第862条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
e-Gov法令検索「任意後見契約に関する法律」第3条・第4条 https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150






