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「借金が多くて相続放棄をしたい。でも、親の生命保険金は受け取れなくなるの?」——借金のある相続でよく出る疑問です。結論から言うと、受取人が指定された死亡保険金は、受取人固有の財産とされ、相続放棄をしても受け取れるのが一般的です。ただし、受取人が亡くなった本人になっている保険や、入院給付金などは相続財産になり、放棄すると受け取れません。また、放棄した人が受け取った保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使えません。この記事では、受け取れるもの・受け取れないものの見分け方と、税金・手続きの注意点を、裁判所と国税庁の公式情報をもとに整理します。
相続放棄をしても死亡保険金を受け取れる理由
相続放棄をした人は、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。借金を引き継がない代わりに、預金や不動産などのプラスの財産も一切受け取れません。
一方、死亡保険金は、亡くなった人の財産を引き継ぐものではありません。最高裁は、被相続人が自分を契約者・被保険者とし、相続人の一部を受取人に指定した保険の死亡保険金請求権について、受取人が自らの固有の権利として取得するもので、相続財産には属さないと判断しています(最決平成16年10月29日。昭和40年2月2日の最高裁判決を参照)。保険金は相続財産ではないので、相続を放棄しても、受取人として請求できるのが一般的な考え方です。
受け取れる保険金・受け取れない保険金の見分け方
放棄しても受け取れるかどうかは、「どんな保険金か」と「受取人が誰か」で決まります。
| ケース | 相続での扱い | 放棄した場合 |
|---|---|---|
| 死亡保険金で、受取人が特定の家族 | 受取人固有の財産 | 受け取れるのが一般的 |
| 死亡保険金で、受取人が「相続人」と指定 | 一般的には受取人固有の財産と考えられている | 受け取れる場合が多いが、保険会社に確認 |
| 受取人が亡くなった本人 | 本人の相続財産 | 受け取れない |
| 本人が受け取るはずだった入院・手術給付金など | 本人の本来の相続財産 | 受け取れない |
| 本人が契約者で保険料を払い、家族が被保険者の保険 | 「生命保険契約に関する権利」として相続財産 | 引き継げない |
入院給付金などについて、国税庁の通達は、被保険者に支払われる給付金が本人の死亡後に支払われた場合には本人の本来の相続財産になるとしています(相続税法基本通達3-7)。亡くなる前の入院・手術の給付金は、相続放棄を考えている人が「保険だから大丈夫」と受け取ってしまいやすいものなので注意しましょう(医療保険・がん保険の死亡後の請求)。保険と相続財産の関係は保険金は相続財産?でも整理しています。
相続放棄した人の保険金と相続税
保険金が受取人固有の財産でも、相続税の上では「みなし相続財産」として課税対象になりえます。相続税法は、亡くなった人が保険料を負担していた死亡保険金を、受取人が相続人なら相続、相続人でなければ遺贈により取得したものとみなします(相続税法3条)。放棄した人は相続人ではないので「遺贈」の扱いになり、次の違いが生まれます。
| 項目 | 放棄していない相続人 | 放棄した人 |
|---|---|---|
| 保険金の非課税枠 | 使える | 使えない(国税庁 No.4114) |
| 非課税枠・基礎控除の「法定相続人の数」 | 放棄した人も含めて数える(放棄がなかったものとした人数) | |
| 借金などの債務控除 | できる | できない。ただし実際に負担した葬式費用は差し引いてよい(相続税法基本通達13-1) |
| 相続税の2割加算 | 配偶者・子・親など一親等の血族は対象外。きょうだいなどは対象(相続税法18条) | |
実際に相続税がかかるかは、遺産全体が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかで決まります。
非課税枠のしくみは生命保険の非課税枠、基礎控除の数え方は相続税の基礎控除で詳しく解説しています。
相続放棄を考えている人が気をつけたいこと
期限は「知った時から3か月」
相続放棄は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に申述します(民法915条、裁判所の案内)。費用は申述人1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手です。手続きの流れは相続放棄の手続き、期限に間に合わないときは熟慮期間の伸長をご覧ください。
相続財産には手をつけない
相続財産を処分すると、単純承認したものとみなされ、放棄できなくなることがあります(民法921条)。受け取ってよいのは自分が受取人の死亡保険金であって、亡くなった人名義の預金や、本人が受取人の給付金ではありません。どちらか分からないお金は、受け取る前に保険会社や専門家に確認しましょう。
保険金が極端に大きいときは遺産分割に影響することも
死亡保険金は原則として特別受益にあたりませんが、最高裁は、受取人とほかの相続人との不公平が著しいと評価すべき「特段の事情」がある場合には、例外的に持ち戻しの対象になりうるとしています(最決平成16年10月29日)。相続放棄をする人には直接関係しにくい論点ですが、ほかの相続人との関係で問題になることがあります(生命保険金と遺留分・特別受益)。
よくある質問
相続放棄をして保険金を受け取ったら、相続税の申告が必要ですか?
遺産全体(みなし相続財産を含む)が基礎控除額を超えると、放棄した人も含めて申告が必要になる場合があります。放棄した人は非課税枠が使えないため、思ったより課税価格が大きくなることがあります。判断は税務署や税理士に確認してください。
保険金を受け取ったあとで相続放棄できますか?
自分が受取人の死亡保険金は相続財産ではないため、受け取ること自体は一般的に相続財産の処分にあたらないと考えられています。ただし、本人が受取人の給付金など相続財産にあたるお金を受け取ると、放棄に影響するおそれがあります。順番に迷ったら、申述の前に専門家に相談しましょう。
私が放棄すると、次は誰が相続人になりますか?
子が全員放棄すると、親、親もいなければきょうだいへと相続人が移ります。借金がある相続では、次の順位の人にも放棄の検討が必要になるため、家族で情報を共有しておくことが大切です。
まとめ:受取人と保険の種類を確認してから判断を
受取人が指定された死亡保険金は受取人固有の財産とされ、相続放棄をしても受け取れるのが一般的です。ただし、受取人が亡くなった本人の保険金、入院・手術給付金、本人が契約者の保険の権利は相続財産で、放棄すると受け取れません。相続税では、放棄した人の受け取った保険金は遺贈とみなされ、非課税枠も債務控除も使えません。放棄の期限は知った時から3か月。保険証券の受取人欄を確認し、相続財産には手をつけないまま、早めに家庭裁判所や専門家に相談しましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令・判例と裁判所・国税庁の公式情報をもとにした一般的な解説です。相続放棄の可否や保険金の扱いは、契約内容や個別の事情で異なります。相続放棄は家庭裁判所・司法書士・弁護士などに、税金は税務署・税理士に、保険金の請求は契約先の保険会社にご確認ください。
最高裁判所 平成16年10月29日第二小法廷決定(決定全文)https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52421.pdf
裁判所「相続の放棄の申述」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
国税庁「No.4152 相続税の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
国税庁「相続税法基本通達 第3条関係(3-7)」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/02.htm
国税庁「相続税法基本通達 第13条《債務控除》関係(13-1)」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/03.htm
国税庁「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例⑨(生命保険契約に関する権利)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sozoku-tokushu/souzoku-ayamarijireishu/ayamarijirei9.pdf
e-Gov法令検索「民法」第915条・第921条・第939条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
e-Gov法令検索「相続税法」第3条・第12条・第13条・第18条 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073






