本ページはプロモーションを含みます
遺産の分け方が決まったら、その内容を書面に残します。これが遺産分割協議書です。「決まった様式はあるのか」「自分で作ってよいのか」と迷う方は多いのですが、結論から言うと、様式は自由で、自分で作成できます。ただし手続きで通用させるには、①誰の相続か、②誰が何を取得するか、③相続人全員が合意したこと、の3点が読み取れ、全員の実印と印鑑証明書がそろっていることが必要です。この記事では、遺産分割協議書が必要なケース、書き方と文例、押印と通数、全員で協議できないときの対応、期限の考え方を整理します。
遺産分割協議書とは・必要なケース
遺産分割協議書は、相続人全員で話し合って決めた遺産の分け方を記した書面です。遺産分割の協議は相続人全員が参加して行うもので、1人でも欠けた協議は手続きに使えません。話し合いそのものの進め方は遺産分割協議の進め方で解説しています。
| 状況 | 協議書 | 補足 |
|---|---|---|
| 遺言書がなく、話し合いで分け方を決めた | 必要 | 登記・預貯金・相続税の手続きで提出を求められる |
| 遺言書はあるが、相続人全員の合意で違う分け方にする | 必要 | 合意の内容を書面にする |
| 遺言書のとおりに分ける | 不要 | 遺言書を使って手続きする |
| 相続人が1人だけ | 不要 | 協議する相手がいない |
| 不動産を法定相続分どおりの共有で登記する | 不要 | 共有になるため、後の売却や管理には注意 |
協議書を使う主な手続き
- 不動産の相続登記:協議書と、相続人の印鑑証明書を法務局に提出します
- 預貯金の払戻し・名義変更:協議書がある場合、相続人全員の署名・押印のある協議書、戸籍、全員の印鑑証明書を求められるのが一般的です
- 相続税の申告:配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使うには、協議書の写しを申告書に添付します
遺産分割協議書の書き方(記載項目と文例)
記載する6つの項目
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 被相続人 | 氏名、亡くなった日、最後の住所(本籍も書くと特定しやすい) |
| 相続人 | 相続人全員の氏名と、全員で協議した旨 |
| 財産と取得者 | どの財産を誰が取得するか。財産は特定できるように書く |
| 記載のない財産の扱い | 後から見つかった財産を誰が取得するか、あらためて協議するか |
| 作成日 | 協議が成立した日 |
| 署名・押印 | 相続人全員の住所・氏名と実印 |
文例(不動産・預貯金・代償金がある場合の一例)
1 相続人○○○○は、次の不動産を取得する。
土地 所在 ○○市○○町一丁目/地番 ○番/地目 宅地/地積 ○○.○○平方メートル
建物 所在 ○○市○○町一丁目○番地/家屋番号 ○番/種類 居宅/構造 木造かわらぶき2階建/床面積 1階○○.○○平方メートル、2階○○.○○平方メートル
2 相続人○○○○は、次の預貯金を取得する。
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
3 相続人○○○○は、1の不動産を取得する代償として、相続人○○○○に対し、金○○○万円を令和○年○月○日までに支払う。
4 本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産は、相続人○○○○が取得する。
以上の協議を証するため、本協議書を3通作成し、各自署名押印のうえ、各1通を保有する。
令和○年○月○日
住所 ○○市○○町○丁目○番○号 氏名 ○○○○ (実印)
(以下、相続人全員分)
これは一例です。実際の文面は、協議の結果に合わせて作成してください。
財産を特定する書き方のコツ
- 不動産:登記事項証明書の表示どおりに書きます。土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積です。住居表示(○番○号)とは違うことがあるので、証明書を見ながら一字ずつ写します
- 預貯金:金融機関名、支店名、預金の種類、口座番号まで書きます。金額は利息などで変わるため、「上記口座の預金のすべて」とする書き方もあります
- 代償金:不動産を1人が取得し、他の相続人にお金を払って調整する場合は、金額と支払期限を明記します(現物分割・代償分割・換価分割の違い)
- 後日判明した財産:一文入れておくと、見つかるたびに協議書を作り直す手間を減らせます(相続財産が後から見つかったとき)
実印・印鑑証明書と作成の実務
全員が実印を押し、印鑑証明書を添える
相続登記に使う遺産分割協議書には、相続人全員が印鑑証明書と同じ印(実印)を押し、印鑑証明書を添付します。1人でも欠けると、名義変更の手続きに使えません。
| 提出先 | 印鑑証明書の扱い |
|---|---|
| 法務局(相続登記) | 協議をした相続人の印鑑証明書を各1通(登記を申請する相続人本人の分は不要)。「作成後3か月以内」といった期限の制約はない |
| 金融機関(預貯金) | 相続人全員の印鑑証明書。発行からの期限を定めている金融機関があるため、事前に確認する |
| 税務署(相続税の特例) | 協議書の写しに、押印した印の印鑑証明書を相続人全員分添付する |
通数・とじ方・遠方の相続人
- 通数:相続人の人数分を作り、各自が1通ずつ保管するのが基本です。法務局の記載例もこの形です
- 複数ページになる場合:ページの差し替えを疑われないよう、とじ目に全員が契印を押します
- 本文の作成方法:パソコンで作成して差し支えありません。氏名は各自が自署し、実印を押す形にしておくと、提出先で確認を求められたときに困りません
- 遠方の相続人がいる場合:全員が一堂に会する必要はなく、郵送で順に回して署名・押印を集められます。日数がかかるため、期限のある手続きから逆算して進めます
相続人全員で協議できないときの対応
遺産分割協議書は全員の合意が前提です。本人が協議に参加できない事情がある場合は、家庭裁判所の手続きを経て、代わりの人が協議に加わります。
| 状況 | 必要な手続き |
|---|---|
| 未成年の子と、その親がどちらも相続人 | 親は子を代理できないため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる(収入印紙は子1人につき800円分。協議書の案を添付する) |
| 認知症などで判断能力が不十分な相続人がいる | 成年後見人が本人に代わって協議に参加する |
| 行方が分からない相続人がいる | 家庭裁判所が選んだ不在者財産管理人が、裁判所の許可を得て協議に参加する |
| 話し合いがまとまらない | 家庭裁判所の遺産分割調停を利用する(収入印紙は被相続人1人につき1,200円分) |
未成年の相続人がいる場合の詳細は未成年者が相続人のとき、調停の流れは遺産分割がまとまらないときで説明しています。
遺産分割協議書の期限と作成後の注意
協議そのものに期限はないが、関連する期限がある
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 10か月 | 相続税の申告期限。分割がまとまっていなくても期限は延びず、未分割のままでは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使った申告ができない |
| 申告期限から3年 | この間に分割がまとまれば、特例を適用して税額を計算し直せる(更正の請求は、分割を知った日の翌日から4か月以内) |
| 協議の成立から3年 | 不動産を取得した人は、遺産分割の成立の日から3年以内に相続登記を申請する義務がある |
| 相続開始から10年 | 10年を過ぎると、原則として生前贈与(特別受益)や介護などの貢献(寄与分)を反映した分け方を求められなくなる(2023年4月開始のルール) |
相続税の申告が必要な場合は、10か月の期限から逆算して、早めに分け方の方向性を固めておくと、書類の準備に余裕が生まれます。
やり直しは税金に注意
誰に作成を頼めるか
自分で作るのが不安な場合は、手続きとあわせて専門家に依頼できます。不動産の相続登記があるなら司法書士、相続税の申告があるなら税理士に、協議書の作成も含めて頼むのが一般的です。相続人の間で争いがあり、交渉そのものを任せたい場合は弁護士の業務になります。
よくある質問
Q. 遺産分割協議書は必ず作らなければいけませんか?
法律上の作成義務はありません。ただし、話し合いで分け方を決めた場合、不動産の登記や預貯金の払戻しで提出を求められるため、実際には作成が必要になります。後から「言った・言わない」になるのを防ぐ意味でも、書面にしておくと安心です。
Q. 財産の一部だけ先に分けることはできますか?
できます。民法は、遺産の全部または一部の分割を協議で決められると定めています。葬儀費用にあてる預貯金だけを先に分け、不動産は後で決める、といった進め方も可能です。その場合は、残りの財産を別途協議する旨を書いておきます。
Q. 遺言書と違う分け方にしてもよいですか?
相続人全員が合意すれば可能です。国税庁も、特定の相続人に全部を与える遺言があっても、相続人全員で異なる分割をした場合は、その協議の内容で相続税を計算するとしています。遺言で相続人以外の人が財産を受け取ることになっている場合や、遺言執行者がいる場合は、進め方を専門家に確認してください。
Q. 相続人の1人が署名に応じてくれません。
全員の合意がなければ協議は成立しません。期限のある手続きが迫っているときは、相続登記なら相続人申告登記、相続税なら法定相続分での申告といった方法で期限に対応しつつ、家庭裁判所の調停を検討します。
Q. 協議書を作った後に、相続人がもう1人いると分かりました。
相続人全員が参加していない協議は、手続きに使えません。原則として、あらためて全員で協議し直すことになります。こうした事態を防ぐため、協議の前に、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をそろえて相続人を確定させておきます。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人全員の合意を書面にし、登記・預貯金・相続税の手続きで使う書類です。様式は自由ですが、財産を特定して書くこと、全員が実印を押すこと、印鑑証明書を添えることが欠かせません。協議に期限はないものの、相続税は10か月、登記は成立から3年という期限が関係します。まずは相続人と財産を確定させ、全員で同じ一覧を見ながら話し合いを始めましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令・公表情報にもとづく一般的な解説です。文例は一例であり、記載すべき内容や必要書類は個別の事情で変わります。最終的な判断は司法書士・税理士などの専門家や各窓口にご確認ください。
参考にした公的情報
- 法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)」
- 法務省「不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」
- 国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
- 国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」
- 国税庁「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」
- 国税庁「相続税法基本通達 第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係」
- 裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」
- 裁判所「遺産分割調停」
- e-Gov法令検索「民法」(25条・28条・826条・859条・904条の3・907条)






