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「相続人が遠方に住んでいて、銀行の窓口に全員で行けない」「平日に役所へ行けないので、兄に戸籍を取ってきてもらいたい」——相続の手続きを誰かに任せるときに使うのが委任状です。結論から言うと、委任状は「誰が、誰に、何を任せるのか」を具体的に書いた書面で、提出先に所定の様式があればそれを使うのが確実です。ただし、手続きによっては代理人になれる人が限られていたり、そもそも代理で請求できなかったりします。この記事では、相続手続きの委任状の書き方を文例つきで解説し、場面ごとの注意点を整理します。
相続手続きで委任状が必要になる主な場面
代理人に手続きを任せるときの扱いは、提出先によって大きく違います。主な場面をまとめると次のとおりです。
| 手続き | 代理での扱い(公的な案内より) |
|---|---|
| 戸籍の請求(本籍地の市区町村) | 代理人は、請求者の依頼で請求することを明らかにする書面(委任状)を出す |
| 戸籍の広域交付(最寄りの窓口) | 代理人による請求はできない(郵送も不可) |
| 法定相続情報一覧図の申出 | 代理人になれるのは親族と、弁護士・司法書士・税理士など法務局が示す士業に限られる |
| 相続登記の申請 | 相続人の間や専門家に申請を任せる場合は、代理権限を証する情報(委任状など)が必要 |
| 預貯金の払戻し・解約 | 必要書類は金融機関ごとに異なる。所定の書式の有無を事前に確認 |
| 準確定申告の還付金の受領 | 代表者がほかの相続人の分を受け取るには「委任状(準確定申告書用)」が必要 |
| 相続税の申告を税理士に依頼 | 委任状ではなく「税務代理権限証書」を提出する |
| 生命保険契約照会制度 | 家族の中で照会代表者を1名決め、ほかの家族は照会申込などを代表者に委任する |
そもそも委任状が要らない場合もある
戸籍法10条では、戸籍に記載されている本人のほか、その配偶者・直系尊属(父母や祖父母)・直系卑属(子や孫)は、自分の立場で戸籍の請求ができます。たとえば子が亡くなった親の戸籍を取る場合は、委任状は要りません。一方、兄弟姉妹など直系でない親族が代わりに取りに行く場合は、請求できる人からの委任状が必要になるのが一般的です。戸籍の集め方の全体像は相続の戸籍の集め方で解説しています。
委任状に書く項目
提出先の所定の様式がない場合は、次の項目を入れて作ります。手書きでもパソコンで作ってもかまいませんが、委任者の署名は自筆にしておくと安心です。
| 項目 | 書き方のポイント |
|---|---|
| 表題 | 「委任状」 |
| 代理人(受任者) | 住所・氏名(生年月日を求められることもある) |
| 委任する内容 | 手続きの種類と範囲を具体的に。「受領」まで任せるかも明記 |
| 対象の特定 | 亡くなった方の氏名・死亡日、口座番号、不動産の所在・地番など |
| 作成日 | 実際に書いた日。空欄にしない |
| 委任者 | 住所・氏名(署名)・押印。提出先によっては実印 |
相続手続きの委任状の文例
次は、銀行の預金の解約を相続人の一人に任せる場合の例です。金融機関に所定の書式があれば、そちらを優先してください。
私は、次の者を代理人と定め、下記の事項を委任します。
代理人 住所:〇〇県〇〇市〇〇町1-2-3 氏名:〇〇 一郎
記
被相続人 〇〇 太郎(令和〇年〇月〇日死亡)の相続に関し、〇〇銀行〇〇支店の普通預金(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)の解約手続き及び払戻金の受領に関する件
令和〇年〇月〇日
委任者 住所:〇〇県〇〇市〇〇町4-5-6 氏名:〇〇 花子(署名) 印
戸籍を任せる場合は、委任事項を「〇〇 太郎(令和〇年〇月〇日死亡)の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本の請求及び受領」のように、誰の、どの証明書を、何通かが分かるように書きます。必要な通数が分かっていれば書き添えると、窓口でのやりとりがスムーズです。
実印と印鑑証明書は必要?
委任状に押す印鑑は、提出先によって求められるものが違います。法律で一律に決まっているわけではなく、預金の払戻しなど財産が動く手続きでは、実印の押印と印鑑証明書を求められることがあります。印鑑証明書は「発行から〇か月以内」と期限を設けている提出先もあるため、取得する前に確認しましょう。
白紙委任と捨印は避ける
委任する内容や代理人の欄を空けたまま署名・押印した「白紙委任状」は、書き込まれた内容次第で、想定していない手続きに使われるおそれがあります。民法109条は、他人に代理権を与えた旨を第三者に示した人は、その範囲での他人の行為について責任を負うと定めています。白紙のまま渡すと、後から「そんなことは頼んでいない」と主張するのが難しくなる場合があるのです。
- 委任事項・代理人・日付はすべて埋めてから署名・押印する
- 「一切の件」と書く場合も、どの財産・どの手続きについての一切かを限定する
- 欄外に押す捨印は、訂正に使える印です。内容を勝手に直されないよう、求められない限り押さないほうが安全です
- 渡す前にコピーを取り、何を任せたかを手元に残す
相手が家族でも、内容を具体的に書くのは信頼していないからではなく、手続きを確実に通すためです。遠方の相続人と書類をやりとりするときのコツは遠方に住む相続人との手続きでも紹介しています。
委任状では代われない・注意が必要なケース
戸籍の広域交付は代理不可
2024年3月に始まった戸籍の広域交付は、請求できる本人が窓口に行き、顔写真つきの本人確認書類を示す必要があります。法務省は、郵送や代理人による請求はできないと案内しています。代理人に頼む場合は、本籍地の市区町村へ委任状をつけて請求します。
法定相続情報一覧図は代理人の範囲が限られる
法務局の案内では、法定相続情報一覧図の申出を代理で頼めるのは、親族のほか、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士です。友人や知人には頼めません。手続きの流れは法定相続情報一覧図とはで確認してください。
遺産分割協議書は相続人全員の署名・押印が基本
全国銀行協会は、遺産分割協議書による預金相続の手続きで、法定相続人全員の署名・捺印がある協議書と全員の印鑑証明書が必要になるのが一般的だと案内しています。委任状で代表者に手続きを任せられても、分け方に合意したことを示す協議書には、各相続人が自分で署名・押印することになります。書き方は遺産分割協議書の作り方をご覧ください。
判断能力が十分でない相続人がいる場合
民法は、意思能力がない状態でした法律行為は無効としています(3条の2)。認知症などで判断能力が十分でない相続人に委任状を書いてもらっても、有効とは扱われないおそれがあります。この場合は成年後見制度の利用を検討します(成年後見制度とは)。また、親と未成年の子がともに相続人になる場合は、親が子を代理して遺産分割をすることが原則としてできず、家庭裁判所で特別代理人を選んでもらう必要があります(未成年者が相続人のとき)。
専門家に依頼するときの委任状
司法書士に相続登記を、税理士に相続税の申告を依頼する場合は、通常は専門家が委任状や税務代理権限証書の様式を用意します。署名・押印する前に、どの手続きを、どこまで任せるのかが書かれているかを確認しましょう。費用の見積もりと業務の範囲がそろっているかもあわせて見ておくと、後から「頼んだはずの手続きが範囲外だった」という行き違いを防げます。
よくある質問
Q. 委任状に決まった書式はありますか?
法律で一律に決まった書式はなく、提出先が独自の様式を用意していることが多いです。様式があればそれを使い、なければこの記事の項目を参考に作ります。
Q. 委任状に有効期限はありますか?
委任状そのものに一律の期限はありませんが、提出先が「作成から〇か月以内」などの条件を設けていることがあります。添付する印鑑証明書にも期限がある場合があるため、使う直前に用意するのが無難です。
Q. 準確定申告の還付金を代表者がまとめて受け取れますか?
受け取れます。国税庁の案内では、還付金の受領を相続人の代表者などに任せる場合、付表とは別に「委任状(準確定申告書用)」を出す必要があります。申告の流れは準確定申告とはで解説しています。
Q. 家族なら委任状なしで手続きできますか?
手続きによります。子が親の戸籍を請求する場合のように、自分の立場でできる手続きは委任状が要りません。一方、ほかの相続人の分まで手続きする場合や、自分に請求する権利がない手続きでは委任状が必要です。
まとめ
相続手続きの委任状は、代理人・委任する内容・対象・作成日・委任者の署名押印をそろえ、何を任せるのかを具体的に書くのが基本です。提出先に様式や印鑑の条件があればそれに従い、白紙委任や捨印は避けましょう。戸籍の広域交付は代理ではできない、法定相続情報一覧図は代理人の範囲が限られる、遺産分割協議書は全員の署名が要るなど、委任状だけでは済まない場面もあります。迷ったら、作る前に提出先へ確認するのがいちばんの近道です。
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の案内をもとにした一般的な解説です。委任状の様式や必要書類は提出先によって異なり、変更されることがあります。実際の手続きは各提出先に、個別の法的な判断は専門家にご確認ください。
e-Gov法令検索「戸籍法」(10条・10条の2・10条の3)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html
法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html
法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)」https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00014.html
国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm
国税庁「相続税申告書の代理送信等に関するQ&A」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0019009-058.pdf
全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-f/7705/
生命保険協会「生命保険契約照会制度のご案内」https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/
e-Gov法令検索「民法」(3条の2・109条・826条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089






