相続の手続き

葬儀費用は誰が払う?相続財産から出す方法と相続税の控除

本ページはプロモーションを含みます

「喪主の自分が全部払うの?」「父の預金から出してもいいの?」——葬儀のあと、費用の負担をめぐって家族の空気が重くなることは珍しくありません。結論から言うと、葬儀費用を誰が払うかは法律で決まっていません。相続人全員が納得すれば故人の財産から精算できますし、急ぎの支払いには銀行の払戻し制度も使えます。また、実際に負担した葬式費用は相続税の計算で遺産から差し引けるため、領収書を残しておくことが大切です。この記事では、負担者の考え方、故人の預金から払うときの注意、香典の扱い、相続税で控除できる範囲を、国税庁や裁判所の公開資料をもとに整理します。

葬儀費用は誰が払う?法律の決まりと裁判例の考え方

民法に「葬儀費用の負担者」の規定はない

民法には、葬儀費用を誰が負担するかを直接定めた条文がありません。民法306条・309条に「葬式の費用」という言葉が出てきますが、これは葬儀費用の債権がほかの債権より優先して支払いを受けられる(先取特権)という規定です。名古屋高等裁判所の判決(平成24年3月29日)も、これらの条文は「誰が葬儀の費用を負担すべきかを定める規定ではない」と述べています。

実際には、家族の話し合いで次のような形がとられています。

よくある形 内容 注意点
喪主が負担する 葬儀を手配した人がそのまま支払う 喪主の負担が重くなりやすい
故人の財産から払う 預貯金や遺産から精算する 相続人全員の了解をとる。相続放棄を考える人は慎重に
相続人で分担する 相続分や話し合いで決めた割合で負担する 割合と精算方法を書面に残す
香典を充てる 受け取った香典を支払いに回す 香典の収支も記録しておく

裁判例:儀式の費用は主宰者、埋葬の費用は祭祀承継者

話し合いがつかず裁判になった例として、上の名古屋高裁判決があります。この事案では、亡くなった方が生前に葬儀の契約をしておらず、関係者の間に費用負担の合意もありませんでした。判決は、その場合には次のように負担するのが相当としています。

  • 通夜・告別式など追悼儀式の費用:儀式を準備・手配して行った主宰者(喪主など)
  • 火葬・埋葬など遺骸や遺骨の扱いに要する費用:亡くなった方の祭祀承継者(お墓などを受け継ぐ人。民法897条)

理由として、儀式をするか、どの規模でいくらかけるかは主宰者が決めるものであること、遺骨は祭祀を主宰する人に帰属すると考えられることを挙げています。また「相続人であるからといって、ただちに葬儀費用を負担すべきものとは解されず」とも述べています。

あくまで一つの裁判例この判決は「生前の契約も、家族の合意もない」場合の判断です。亡くなった方が自分で葬儀の契約をしていた場合や、家族の間で負担の合意がある場合は、その内容が優先されると考えられます。個別の事情で結論は変わるため、もめそうなときは早めに専門家へ相談してください。

葬儀費用を相続財産(故人の預金)から払うときの注意

相続人全員の了解をとり、精算方法を決める

「葬儀費用は父の遺産から出す」と相続人全員が合意すれば、故人の財産から支払う、あるいは立て替えた人に遺産から返すことができます。遺産分割協議書に「喪主が立て替えた葬儀費用○○円は、預金から精算する」といった一文を入れておくと、後から蒸し返されにくくなります(遺産分割協議書の作り方)。

口座が凍結されても、払戻し制度で一部を引き出せる

金融機関が名義人の死亡を知ると、口座の取引は止まります。ただし民法909条の2により、遺産分割の前でも、各相続人は預金の一部を単独で払い戻せます。目安の額は「亡くなった時点の預金額×3分の1×その人の法定相続分」で、同じ金融機関からは150万円までです。全国銀行協会のリーフレットも、当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのための制度として案内しています。計算例や必要書類は銀行口座の凍結と払戻し制度で詳しく解説しています。

払い戻した分は、その相続人が遺産の一部を先に取得したものとして扱われます。誰がいくら引き出し、何に使ったかを家族に共有しておきましょう。

相続放棄を考えているなら、使う前に確認を

民法921条は、相続人が相続財産を「処分」したときは単純承認(すべて相続すること)をしたものとみなすと定めています。故人の預金から葬儀費用を払うことがこれに当たるかどうかは、金額や事情によって判断が分かれうるところです。借金が多いなど相続放棄の可能性があるときは、故人のお金に手をつける前に、家庭裁判所や司法書士・弁護士に確認するのが安全です(相続放棄の手続き)。

香典は誰のもの?葬儀費用に充ててよいか

香典は、亡くなった方の財産ではなく、葬儀を行う遺族(喪主など)への贈り物として扱われるのが一般的です。そのため遺産分割の対象にはならず、葬儀費用に充てることもよく行われます。

税金の面では、国税庁の通達(相続税法基本通達21の3-10)が、個人から受ける香典などで、社交上必要なもので社会通念上相当と認められるものには贈与税を課税しないとしています。一方で、香典返しにかかった費用は、次の章で説明する相続税の葬式費用には含まれません。

香典を葬儀費用に充てたなら、「香典の合計」「支払った額」「残り」を一覧にして家族に見せておくと、不信感が生まれにくくなります。

葬儀費用は相続税の計算で控除できる(範囲と注意点)

相続税を計算するとき、一定の相続人や包括受遺者が負担した葬式費用は、遺産総額から差し引けます(相続税法13条)。国税庁のタックスアンサーでは、対象になるもの・ならないものを次のように示しています。

差し引ける葬式費用 差し引けない費用
火葬・埋葬・納骨の費用(仮葬式と本葬式の両方を含む) 香典返しの費用
遺体や遺骨の回送の費用 墓石・墓地の購入費、墓地の借入料
お通夜など、葬式の前後に生じた通常かかせない費用 初七日など法事の費用
読経料などお寺へのお礼 医学上・裁判上の特別な処置の費用(通達13-5)
死体の捜索や、遺体・遺骨の運搬の費用  
相続放棄した人が払った場合相続を放棄した人は、原則としてこの控除を使えません。ただし国税庁の通達(13-1)は、放棄した人が実際に葬式費用を負担した場合、その人が遺贈で取得した財産(死亡保険金など)の価額から差し引いてよいとしています。

差し引けるのは、実際にその費用を負担した人の課税価格からです。誰がいくら払ったかが申告で必要になるため、領収書や請求書は捨てずに保管し、お布施のように領収書が出にくい支払いは、日付・支払先・金額をメモしておきましょう(相続税申告の必要書類)。なお、遺産総額が基礎控除以下で相続税がかからない場合は、この控除を意識する必要はありません(相続税の基礎控除)。

葬祭費・埋葬料を請求して負担を軽くする

亡くなった方が加入していた公的医療保険から、葬儀に関する給付を受けられます。申請しないと支給されません。

加入していた保険 給付 受け取る人・期限
国民健康保険・後期高齢者医療 葬祭費(額は市区町村などで異なる。豊橋市の国保は5万円) 葬祭を行った人。豊橋市は葬祭の翌日から2年
会社の健康保険(協会けんぽ) 埋葬料5万円 生計を維持されていた人で埋葬を行う人。請求権の時効は2年(健康保険法193条)

資格喪失の届出とあわせて手続きするとスムーズです。詳しくは介護保険・健康保険の資格喪失手続きをご覧ください。

葬儀費用でもめないための進め方

  • 見積もりを家族で共有してから契約する:規模や金額を喪主だけで決めない
  • 立替えは一覧にする:日付・内容・支払った人・金額・領収書の有無
  • 香典の収支も記録する:受け取った額と使い道
  • 精算方法を書面に残す:遺産から精算するのか、分担するのか
  • 本人の希望は生前に聞いておく:生前契約や費用の準備があれば家族の負担が減る(葬儀の生前準備)

よくある質問

Q. 喪主を務めたら、葬儀費用を全額払わないといけませんか?

法律で決まっているわけではありません。家族で合意すれば、遺産から精算したり、相続人で分担したりできます。合意がない場合に儀式の費用は主宰者が負担するとした裁判例もあるため、葬儀の前後に負担の方法を話し合っておくことが大切です。

Q. 四十九日の法要や墓石の費用も相続税で差し引けますか?

差し引けません。国税庁は、初七日などの法事の費用、墓石や墓地の購入費を葬式費用に含まないとしています。

Q. 葬儀費用を立て替えました。いつ精算してもらえますか?

遺産分割の話し合いで精算するのが一般的です。急ぐ場合は、払戻し制度で引き出した預金を充てる方法もあります。いずれも、立替えの記録と領収書を相続人に示すと話が進みやすくなります。

Q. 香典を相続人で分ける必要はありますか?

香典は遺族への贈り物として扱われるのが一般的で、遺産分割の対象にはならないと考えられています。ただ、葬儀費用に充てた後の残りの扱いは家族で決めておくと安心です。

まとめ

葬儀費用を誰が払うかは法律で決まっておらず、喪主の負担、遺産からの精算、相続人での分担など、家族の合意で決めるのが基本です。合意がない場合には、儀式の費用は主宰者、埋葬の費用は祭祀承継者が負担するとした裁判例があります。故人の預金は払戻し制度で一部を引き出せますが、相続放棄を考えているなら使う前に確認を。葬式費用は相続税の計算で差し引けるので、領収書と立替えの記録を残しておきましょう。

立替えの記録を、家族みんなで見られるように。

葬儀や相続のお金のやりとりを家族と共有できるアプリ「ゆいのわ」は、ただいま準備中です。

ゆいのわについて見る

※本記事は2026年10月時点の法令・国税庁の公開情報・公表裁判例をもとにした一般的な解説です。費用負担の結論や相続税の扱いは個別の事情で異なります。相続税は税務署・税理士に、相続放棄や家族間の紛争は家庭裁判所・専門家にご確認ください。

参考にした公的情報・公式案内(2026年10月確認)
国税庁「No.4129 相続財産から控除できる葬式費用」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4129.htm
国税庁「相続税法基本通達 第13条《債務控除》関係(13-1・13-4・13-5)」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/03.htm
国税庁「相続税法基本通達 21の3-10 社交上必要と認められる香典等の非課税の取扱い」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/10.htm
裁判所「名古屋高等裁判所 平成24年3月29日判決(平成23年(ネ)第968号)」https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-82234.pdf
e-Gov法令検索「民法」第306条・第309条・第897条・第909条の2・第921条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
全国銀行協会「ご存知ですか?遺産分割前の相続預金の払戻し制度」https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/article/F/7705_heritage_leaf.pdf
全国健康保険協会(協会けんぽ)「埋葬料・埋葬費」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/burial_charges/
豊橋市「国保の被保険者が死亡したとき(葬祭費)」(市区町村の案内の例)https://www.city.toyohashi.lg.jp/6542.htm

この続きは、ゆいのわで。

手続きの期限や必要書類を、家族で一緒に進められます。

アプリを使ってみる

相続の「これからやること」を、家族みんなで。

ゆいのわは、生前のそなえから相続の手続きまで、家族で一緒に進められるアプリです。

アプリについて見る

ただいま準備中です