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「うちは仲がいいから、相続でもめることはない」。そう考えていても、親が亡くなったあとに分け方で意見が割れ、関係がこじれてしまう家族は少なくありません。結論から言うと、相続でもめる原因は財産が多いかどうかではありません。分けにくい財産(とくに実家)、介護や生前贈与をめぐる不公平感、財産の情報がそろっていないこと。この3つが重なると、金額に関係なく話し合いは止まります。この記事では、裁判所の最新の統計で争いの実態を確認し、もめる原因を7つに分けて、生前と相続後それぞれの防ぎ方を整理します。
相続でもめるのはお金持ちだけではない:統計で見る実態
最高裁判所の「令和7年 司法統計年報(家事編)」によると、2025年に全国の家庭裁判所で終わった遺産分割事件(調停・審判)は16,431件でした。家庭裁判所まで進んだ争いだけで、この件数です。
このうち、調停の成立または審判で分け方が決まった8,321件を遺産の額で分けると、次のとおりです。
| 遺産の価額 | 件数 | 割合(目安) |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 2,938件 | 約35% |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 3,519件 | 約42% |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 944件 | 約11% |
| 1億円超 | 601件 | 約7% |
| 算定不能・不詳 | 319件 | 約4% |
遺産5,000万円以下が全体の約78%を占めています。また、遺産に土地か建物が含まれていた事件は6,684件で、約8割でした。家庭裁判所での争いの多くは、ふつうの家庭の、実家を含む相続で起きていることが分かります。
相続でもめる7つの原因
争いのきっかけは家族ごとに違いますが、よく見られるものは次の7つに整理できます。
| 原因 | よくある場面 |
|---|---|
| 1. 分けにくい不動産 | 遺産の大半が実家。住む人・売りたい人で意見が割れる |
| 2. 介護・家業の貢献 | 「親の介護をしたのは私だけ」という不公平感 |
| 3. 生前贈与 | 住宅資金や結婚資金を一部の子だけが受けていた |
| 4. 財産の情報がない | 通帳や保険の全体が見えず、隠しているのではと疑う |
| 5. 預金の使い込みの疑い | 同居の家族が親の口座を管理していた |
| 6. 遺言がない・内容が偏っている | 本人の考えが分からない、または一人に集中している |
| 7. 関係の遠い相続人 | 前の配偶者との子、疎遠なきょうだい、配偶者の口出し |
1. 分けにくい不動産が中心の遺産
預金は1円単位で分けられますが、実家はそうはいきません。「長男が住み続けたい」「売って現金で分けたい」と方針が割れやすく、評価額をいくらと見るかでも意見が分かれます。とりあえず全員の共有名義にすると、売るにも貸すにも全員の同意が必要になり、問題を先送りするだけになりがちです(不動産の共有名義の相続)。
2. 介護や家業への貢献をどう評価するか
民法には、亡くなった方の財産の維持や増加に「特別の寄与」をした相続人の取り分を増やす寄与分の制度があります。ただし裁判所の案内では、親族として通常期待される程度を超える貢献が必要とされ、「自分の負担が大きかった」というだけでは認められません。2025年に寄与分の定めがあった事件は119件で、調停成立・審判で終わった事件(8,399件)の約1.4%にとどまります。「報われない」という気持ちが争いの火種になりやすい分野です(寄与分とは)。
3. 一部の相続人だけが受けた生前贈与
住宅購入の援助や結婚資金など、生計の資本としての贈与は特別受益として遺産に持ち戻して計算されることがあります。一方で「あれは援助ではなく親の好意だった」「何十年も前の話だ」と受け止め方が割れやすく、2025年に特別受益が考慮された事件は561件でした(特別受益とは)。
4. 財産の全体像が共有されていない
通帳や保険証券がどこにあるか分からない、一部の家族だけが把握している。この状態だと、他の家族は「まだ何か隠しているのでは」と疑います。なお、裁判所の手続きは遺産を探すためのものではなく、ほかに遺産があると考える人が、自分で裏付けの資料を出すことが原則とされています。情報の偏りは、裁判所に行っても解消されにくいのです。
5. 預金の使い込みの疑い
親と同居していた家族が通帳を管理していた場合、引き出しの使い道をめぐって疑いが生じやすくなります。裁判所の案内では、遺産が不当に減ったという主張は遺産分割とは別の手続き(損害賠償請求の訴訟など)が必要になる場合があるとされ、長期化しやすい争いです(相続の預金使い込み)。
6. 遺言がない、または偏っている
遺言がなければ、相続人全員の合意で分け方を決めるしかありません。反対に、遺言で一人にほぼすべてを渡すと、兄弟姉妹以外の相続人には最低限の取り分である遺留分があるため、別の争いにつながることがあります。
7. 関係が遠い相続人がいる
前の配偶者との子、長く連絡を取っていないきょうだいなども、相続人であれば話し合いへの参加が必要です。顔を合わせたことのない相続人同士では、信頼関係がない分、条件面の対立が表に出やすくなります。相続人の配偶者が意見を言い始めて話がこじれる、という相談もよく聞かれます。
生前にできる防ぎ方:親が元気なうちに
もっとも効果が大きいのは、相続が始まる前の準備です。本人の考えをはっきりさせ、情報をそろえておけば、残された家族が推測で争う余地が小さくなります。
- 財産の一覧を作る:銀行・証券・保険・不動産・借入れを「どこに何があるか」の形で書き出す。金額より在り処が先です
- 遺言書を用意する:分けにくい実家を誰が引き継ぐかを決めておく。遺留分にも目配りする
- 理由を伝える:遺言の付言事項や家族への手紙で「なぜこう分けるのか」を残す
- 生前贈与の記録を残す:誰にいつ何のために渡したか。持ち戻しを望まないなら、その意思も書面に
- 介護の分担を見える化する:担った人の負担を家族で共有し、遺言で報いることも考える
- 家族で一度話しておく:親の希望をきょうだい全員が同じ場で聞いておく(親と相続の話をするには)
相続が始まってからできる防ぎ方
準備がないまま相続が始まっても、進め方しだいでこじれを小さくできます。
情報は全員に同じものを渡す
財産目録や通帳の写しは、一部の人だけでなく相続人全員に同じものを共有します。「知らないところで話が進んでいる」と感じさせないことが、いちばんの予防策です。
感情の対立と、決めるべき項目を分ける
過去の不満と、いま決めるべきこと(誰が何を取得するか)を同じテーブルに載せると、話が前に進みません。決める項目を書き出し、一つずつ確認していきます。具体的な進め方は遺産分割協議の進め方で解説しています。
10年の区切りを意識する
2023年4月施行の改正民法では、相続開始から10年を過ぎた遺産分割には、原則として特別受益や寄与分の主張が使えなくなりました(民法904条の3)。改正前に始まった相続には猶予がありますが、遅くとも2028年3月31日が一つの区切りになります。「話がつかないから放っておく」は、不公平を主張したい側にとって不利に働きます。
行き詰まったら第三者の手を借りる
当事者だけで解決できないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を使えます。中立の調停委員会が双方の話を聞き、合意に向けて調整します(遺産分割調停・審判の流れ)。
よくある質問
財産が少なければ、相続でもめる心配はありませんか?
そうとは限りません。2025年の司法統計では、調停の成立や審判で分け方が決まった事件の約35%が遺産1,000万円以下でした。財産が少ないほど、実家しか分けるものがない、代わりに払う現金がないといった事情で、かえって調整が難しくなることがあります。
きょうだいの仲が良ければ大丈夫ですか?
仲の良さは大きな支えですが、介護の負担や生前の援助に差があると、相続の場で初めて不満が表に出ることがあります。仲が良いうちに、親の希望と財産の在り処を共有しておくことが予防になります。
遺言書があれば、もめることはありませんか?
遺言は争いを大きく減らしますが、万能ではありません。形式の不備で無効になる、遺留分を侵害している、分け方の理由が伝わらず納得が得られない、といった場合には争いが残ります。理由を添え、遺留分にも目配りした内容にしておくと安心です。
もめてしまったら、まず何をすればよいですか?
まず財産の情報を全員にそろえ、何が対立点なのか(遺産の範囲か、評価か、分け方か)を書き出します。それでも進まなければ、家庭裁判所の調停を検討します。相手と直接話すのが難しい場合、弁護士は代理人として交渉や調停の手続きを担える専門家です。
まとめ
相続の争いは、財産の多い少ないとは関係なく起こります。裁判所の統計では、遺産分割事件の約8割が遺産5,000万円以下で、約8割の事件に土地か建物が含まれていました。火種になりやすいのは、分けにくい実家、介護や生前贈与をめぐる不公平感、そして財産の情報不足です。元気なうちに財産の在り処を一覧にし、遺言と理由を残し、家族で一度話しておく。相続が始まったら情報を全員にそろえ、10年の区切りも意識して早めに話し合う。それが、家族の関係を守るいちばん確実な方法です。
※本記事は2026年10月時点の法令と、最高裁判所の公表資料をもとにした一般的な解説です。統計の割合は公表された件数から計算した目安です。実際の対応は個別の事情で異なりますので、具体的な判断は弁護士などの専門家や家庭裁判所の窓口にご確認ください。
最高裁判所「司法統計」(令和7年 司法統計年報 家事編 第44表・第50表〜第52表)https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/shihotokei_search/index.html
最高裁判所「令和7年 司法統計年報(家事編)」Excel版 https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/toukei/toukei-excel-16677.xlsx
裁判所「遺産分割調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」(遺産分割について)https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html
東京家庭裁判所「遺産分割調停案内(調停を申し立てられる方へ)」https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/R8.6t23_isanbunkatu_chouteiannai.pdf
法務省「令和3年民法・不動産登記法改正(民法の改正 所有者不明土地等関係)の主な改正項目」(具体的相続分による遺産分割の時的限界)https://www.moj.go.jp/content/001444020.pdf
e-Gov法令検索「民法」第903条・第904条の2・第904条の3・第1042条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089






