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「家に置いてある現金なら、銀行に記録がないから相続税の申告に入れなくても分からないのでは」——そう考える方は少なくありません。結論から言うと、自宅で保管している現金(タンス預金)も、預貯金と同じく相続税の課税対象です。申告から外すと、税務調査で指摘されて本来の税金に加算税・延滞税が上乗せされ、意図的に隠したと判断されれば重加算税の対象になります。国税庁の公表資料でも、相続人の自宅金庫に保管していた現金を申告から除外した事例が紹介されています。この記事では、タンス預金と相続税の関係、税務署が把握する流れ、見つけたときの対処を整理します。
タンス預金も相続税の課税対象
国税庁は、相続税の対象になる財産を「現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか、金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」と説明しています。保管場所が銀行か自宅かは関係ありません。
| こんな現金 | 相続財産になるか(一般的な扱い) |
|---|---|
| 自宅のタンス・金庫・仏壇などにある現金 | なる |
| 貸金庫に入れてある現金 | なる |
| 亡くなる直前に、本人の口座から引き出した現金 | 手元に残っていれば手持ちの現金として相続財産になる |
| 家族が預かっているが、もともと本人のお金 | 本人の財産として相続財産になりうる |
| 家族名義の口座に移した本人のお金 | 実態によっては名義預金として相続財産になる |
国税不服審判所の裁決でも、相続開始の直前に銀行預金から引き出された現金を、相続開始時の手持ち現金と認定した事例や、亡くなる数日前に相続人が引き出した5,000万円について、本人が使った事実が認められないとして相続財産と認定した事例が公表されています。「口座から出してしまえば預金ではない」という考えは通用しません。
タンス預金はなぜ把握されるのか
国税庁は、相続税の実地調査について「資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等」を対象にしていると公表しています。一般的には、次のような情報の不自然さが手がかりになります。
- 本人の口座からのまとまった出金:何に使われたのかが説明できない
- 収入と残った財産のつり合い:生前の収入(給与・年金・不動産収入など)に比べて、申告された財産が少なすぎる
- 家族の口座への資金移動:本人の口座から相続人や家族名義の口座へ多額の移動がある
国税庁が公表した令和6事務年度の相続税の調査等の状況では、実地調査9,512件のうち申告漏れなどの非違があったのが7,826件(82.3%)、重加算税が課されたのが1,065件、追徴税額は合計824億円でした。
税務調査がどのような流れで行われるかは、相続税の税務調査で詳しく解説しています。
申告から外すと課される加算税・延滞税
申告漏れが分かると、不足していた本来の税金に加えて、次のような負担が生じます(国税通則法)。
| 種類 | どんなとき | 割合(原則) |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 期限内に申告したが、税額が少なかった | 増えた税額の10%(一定額を超える部分は15%) |
| 無申告加算税 | 期限までに申告しなかった | 15%(50万円超の部分20%、300万円超の部分30%) |
| 重加算税 | 財産を隠したり、事実を偽ったりした | 35%(無申告の場合は40%) |
| 延滞税 | 納付が期限より遅れた | 遅れた日数に応じてかかる |
重加算税は、過少申告加算税や無申告加算税の代わりに課されるもので、割合が大きく上がります。タンス預金を知りながら申告から外した場合は、この「隠した」に当たると判断されるおそれがあります。
タンス預金を見つけたときの対処
- 相続人で確認し、記録する:誰か1人が持ち出さず、複数人で金額を数え、日付・場所・金額をメモに残します。勝手に使うと、ほかの相続人との間で使い込みを疑われる原因になります(相続の預金使い込み)
- 財産目録に入れる:相続開始時点の金額を、預貯金とは別の「現金」として一覧にします
- 遺産分割の対象として話し合う:現金も、遺言がなければ相続人全員で分け方を決めます
- 相続税の申告に含める:遺産の総額が基礎控除を超えるなら、10か月以内に申告します(相続税の基礎控除)
- 申告後に見つかったら:早めに修正申告をします(相続財産が後から見つかったとき)
現金は、入金した口座の記録が残る預貯金と違い、家族が存在を知らなければ遺品整理のときに処分されてしまうこともあります。押し入れや衣類のポケット、本の間など、思わぬ場所から出てくることもあるため、遺品は中身を確認してから整理すると安心です。
生前にできる備え
多額の現金を自宅に置くことには、盗難・火災や災害による焼失・紛失、詐欺の被害に遭いやすいといったリスクもあります。相続税の面でも、現金で持っているから評価が下がるわけではありません。
- 必要以上の現金は口座に戻す:記録が残り、家族も把握しやすくなります
- 置き場所と、おおよその金額を家族に伝えておく:金額そのものはメモにして信頼できる人に、存在だけでも共有しておくと把握漏れを防げます
- 口座の一覧を残す:どの金融機関に口座があるかが分かれば、相続のときの照会がスムーズです(預貯金口座付番制度)
よくある質問
少額のタンス預金でも申告に入れる必要がありますか?
現金は金額にかかわらず相続財産です。遺産の総額が基礎控除以下で相続税の申告自体が不要なら、税務署への申告は必要ありませんが、遺産分割の対象としては相続人全員で把握しておきましょう。
亡くなる前に、親に頼まれて口座から現金を引き出しておきました。どう扱いますか?
引き出した現金が相続開始時に残っていれば、手持ちの現金として相続財産になります。何に使ったかを説明できるよう、引き出した日・金額・使い道と領収書を整理しておくと、調査で質問されたときにも答えやすくなります。
現金を相続人で分けたら、銀行に預けても大丈夫ですか?
遺産分割で取得した現金を自分の口座に入れることに問題はありません。ただし、相続税の申告が必要な場合は、分ける前の相続開始時点の金額で申告します。誰がいくら取得したかは、遺産分割協議書に書いておくと後で説明しやすくなります(遺産分割協議書の作り方)。
申告から外したタンス預金は、何年も経てば問題になりませんか?
税務署が税額を正す(更正・決定する)ことができる期間は、国税通則法で原則として法定申告期限から5年ですが、偽りその他不正の行為で税を免れた場合は7年に延びます。「時間が経てば大丈夫」と考えるのは危険です。気づいた時点で修正申告を検討してください。
まとめ:現金も「財産の一覧」に入れることがいちばんの対策
タンス預金は、保管場所が自宅というだけで、相続税の扱いは預貯金と変わりません。税務署は口座の出金履歴や収入とのつり合いなどから現金の存在を推測でき、隠したと判断されれば重加算税の対象になります。亡くなる直前に引き出した現金も、残っていれば相続財産です。見つけたら相続人で記録して財産目録と申告に含め、申告後に見つかったら早めに修正申告をしましょう。生前のうちに、現金の存在と置き場所を家族が分かるようにしておくことが、相続のときの負担を減らします。
※本記事は2026年10月時点の法令と国税庁・国税不服審判所の公表情報をもとにした一般的な解説です。加算税の割合は原則的なもので、実際の課税の有無や金額は個別の事情で異なります。具体的な判断は税務署・税理士にご確認ください。
国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4105.htm
国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月)https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sozoku_chosa/index.htm
国税不服審判所「公表裁決事例要旨 相続税法関係 現金、小切手」https://www.kfs.go.jp/service/MP/04/0305010000.html
e-Gov法令検索「国税通則法」第65条・第66条・第68条 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066






