遺言・遺留分

遺言と異なる遺産分割はできる?全員合意の条件と贈与税の扱い

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「遺言書が見つかったけれど、今の家族の事情に合わない。みんなで話し合って別の分け方にしたい」——こうした相談は珍しくありません。結論から言うと、相続人全員(遺言で財産を受け取る人を含む)が合意すれば、遺言と異なる遺産分割ができる場合があります。国税庁も、特定の相続人に全部の遺産を与える遺言がある場合に、相続人全員で遺言と異なる分割をしたときは、原則として贈与税の問題にはならないという扱いを示しています。ただし、遺言で分割が禁じられているとき、遺言執行者がいるとき、相続人以外の受遺者がいるときなどは注意が必要です。この記事では、その条件と進め方を整理します。

遺言と異なる遺産分割ができる条件

遺言は、亡くなった方の最終の意思です。遺言がある場合は、その内容にそって手続きを進めるのが基本です(遺言書がある場合の相続手続き)。一方で民法907条は、共同相続人は遺言で禁じられた場合などを除き、いつでも協議で遺産を分割できると定めています。実務では、次の条件がそろえば遺言と異なる分割ができると考えられています。

確認すること 内容
相続人全員の合意 1人でも反対すれば成立しない。遺言で多く受け取る人も含めて全員
受遺者の同意 相続人以外に遺贈を受ける人がいれば、その人が遺贈を放棄するなどの対応が必要
遺言で分割が禁じられていないか 遺言で相続開始から5年以内の期間、分割を禁じることができる(民法908条1項)
遺言執行者がいるか 執行者には遺言を実現する権利義務がある。執行者と協議しながら進めるのが一般的
「知らなかった」とは別の話ここで扱うのは、遺言の内容を全員が知ったうえで、あえて別の分け方を選ぶケースです。遺産分割を終えた後に遺言書が見つかった場合は、扱いが異なります。その場合は遺産分割のやり直しをご覧ください。

受遺者・遺言執行者がいるときの注意点

相続人以外の受遺者がいる場合

遺言で、孫や内縁の配偶者、お世話になった方など、相続人以外の人に財産を渡すと書かれていることがあります。受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できます(民法986条)。遺言と異なる分割をするなら、その受遺者の意思確認が欠かせません。

  • 特定遺贈(「この土地を○○に」と財産を特定):受遺者が放棄すれば、その財産は相続人の間で分けることになる(民法995条)
  • 包括遺贈(「財産の3分の1を○○に」など割合で指定):包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つ(民法990条)ため、遺産分割協議に加わる立場になる

包括受遺者は相続人と同じ扱いを受けるため、包括遺贈を放棄するには、相続放棄と同じく家庭裁判所での手続きが必要と一般に解されています。遺贈の種類による違いは遺贈とはで解説しています。

遺言執行者がいる場合

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を持ちます(民法1012条)。また、遺言執行者がいるときは、相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができず、違反した行為は無効とされます(民法1013条)。そのため、遺言執行者がいる場合は、相続人だけで決めて進めるのではなく、執行者と話し合ったうえで進めるのが一般的です。執行者が専門家や金融機関である場合は、早めに相談しましょう(遺言執行者とは)。

遺言で分割が禁じられているとき遺言で一定期間の分割禁止が定められている場合、その期間中は協議による分割ができません。また、遺言者が明確に「この分け方を変えないでほしい」と理由を書いている場合もあります。法的に可能かどうかとは別に、故人の意思をどう受け止めるかも家族で話し合いたいところです。

遺言と異なる遺産分割と贈与税・相続税の扱い

国税庁の考え方

国税庁のタックスアンサー「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」は、次のように説明しています。

  • 特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言がある場合に、相続人全員で遺言と異なる遺産分割をしたときは、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人の間で遺産分割が行われたとみるのが相当
  • 各相続人の相続税の課税価格は、分割協議の内容に基づいて決まる
  • 受遺者である相続人から他の相続人へ贈与があったものとして贈与税が課されることにはならない

つまり、遺言で全部を受け取るはずだった相続人が、いったん受け取ってから他の相続人に分けた、という扱いにはならないということです。

税務で注意したい場面

国税庁が示しているのは上記のケースです。次のような場面では、個別の事情によって扱いが変わる可能性があるため、事前に税務署や税理士に確認してください。

場面 注意したい理由
遺言どおりにいったん名義変更や相続登記を済ませた後で分け直す 一度確定した取得を動かすと、相続人の間での贈与や売買と見られるおそれがある
相続人以外の受遺者が関わる 国税庁の例は「受遺者である相続人」についての説明
相続税の申告後に分け方を変える 申告内容との関係で、修正申告などが必要になる場合がある
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使いたい 誰が何を取得するかで特例の適用が変わる

分け直しを考えるなら、遺言どおりの手続きを始める前に話し合うことが大切です。

遺言と異なる遺産分割の進め方

  1. 遺言の内容と効力を確認する:自筆証書遺言なら検認を受け(法務局で保管されていたものを除く)、遺言執行者の指定や分割禁止の有無を読み取る
  2. 相続人と受遺者を確定する:戸籍で相続人をそろえ、遺言に登場する受遺者を確認する
  3. 遺言執行者に連絡する:執行者がいれば、遺言と異なる分割を考えていることを伝え、進め方を相談する
  4. 全員で分け方を話し合う:1人でも反対があれば成立しない。無理に押し切らない
  5. 遺産分割協議書を作る:遺言の存在を知ったうえで合意したことが分かるよう記載し、全員が実印で押印して印鑑証明書を添える(遺産分割協議書の作り方)
  6. 名義変更・相続登記・申告を進める:協議書の内容にもとづいて手続きする(相続登記の必要書類)

全員の合意が得られないときは

1人でも反対すれば、遺言と異なる分割はできず、遺言の内容にそって手続きを進めることになります。遺言の内容が一部の相続人に偏っていて、子や配偶者など遺留分のある人の取り分が少ない場合は、遺留分侵害額請求で金銭を求める方法があります。請求できる期間は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈などを知った時から1年、相続開始から10年です(民法1048条)。詳しくは遺留分とはをご覧ください。

よくある質問

遺言で全部を受け取る相続人が「それでいい」と言えば、口約束で十分ですか?

口約束だけでは、名義変更や相続登記、相続税の申告で使えません。また、後から「そんなつもりではなかった」と争いになるおそれもあります。全員が合意した内容は、遺産分割協議書にまとめておきましょう。

遺言執行者が反対しています。相続人全員が合意していても進められませんか?

遺言執行者には遺言を実現する権利義務があり、執行を妨げる相続人の行為は無効とされます。執行者がいる場合の扱いは事情によって判断が分かれるため、執行者とよく話し合い、必要に応じて弁護士などの専門家に相談してください。

遺言と異なる分け方をすると、相続税は増えますか?

相続税は分割協議の内容にもとづいて計算されるため、誰が何を取得するかで、特例の使い方や各人の税額が変わります。増えるか減るかは財産の内容次第です。概算は税務署の相談窓口や税理士に確認しましょう。

遺言の一部だけを変えることはできますか?

全員が合意すれば、一部の財産だけを遺言と異なる分け方にすることも考えられます。ただし、どの財産を遺言どおりにし、どの財産を協議で分けたのかが分かるよう、協議書にはっきり書いておく必要があります。

まとめ:全員の合意と、手続き前の話し合いが鍵

遺言書があっても、相続人全員と受遺者が合意し、遺言で分割が禁じられていなければ、遺言と異なる遺産分割ができる場合があります。遺言執行者がいるときは執行者との話し合いが欠かせません。国税庁は、特定の相続人に全部を与える遺言と異なる分割を相続人全員で行った場合、原則として贈与税はかからないとしています。一方、遺言どおりに名義変更した後で分け直すと贈与などと見られるおそれがあるため、手続きを始める前に話し合い、協議書に残すことが大切です。

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※本記事は2026年10月時点の法令と国税庁の公表資料をもとにした一般的な解説です。遺言と異なる分割ができるかどうか、税金がどうなるかは、遺言の内容や個別の事情によって異なります。法的な判断は弁護士などの専門家に、税金は税務署・税理士にご確認ください。

参考にした公的情報・公式案内(2026年10月確認)
国税庁「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4176.htm
e-Gov法令検索「民法」第907条・第908条・第986条・第990条・第995条・第1012条・第1013条・第1048条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
e-Gov法令検索「相続税法」第11条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
裁判所「遺言書の検認」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html

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