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「長男に家を残す理由を、ほかの子にも分かってほしい」「最後に家族へ感謝を伝えたい」——遺言書には、財産の分け方だけでなく、こうした気持ちを書き添えることができます。それが付言事項(ふげんじこう)です。最初に大切な点をはっきりさせておくと、付言事項には法的な効力がありません。書いたお願いを家族に守らせることはできず、遺留分の請求を止めることもできません。それでも、分け方の理由が書かれているかどうかで、遺言の受け止め方が変わることがあります。この記事では、付言事項の位置づけと書き方、テーマ別の文例(一例)、避けたい書き方を整理します。
付言事項とは:法的効力のない「想いの部分」
遺言に書いたことのうち、法律上の効力が生じるのは、民法などの法律で遺言によってできると定められた事項に限られます。たとえば、相続分の指定(民法902条)、遺産分割方法の指定(908条)、遺贈(964条)、子の認知(781条2項)、遺言執行者の指定(1006条)などです。
これに対して付言事項は、こうした法定の事項以外に書き添える、家族へのメッセージや希望の部分を指す言葉です。法律に「付言事項」という条文があるわけではなく、法的な効力がない記載をまとめてこう呼んでいます。
| 法定の遺言事項 | 付言事項 | |
|---|---|---|
| 例 | 「自宅を長男に相続させる」「遺言執行者に○○を指定する」 | 「家を継いでくれる長男に自宅を託します」「みんな仲良くしてください」 |
| 法的効力 | あり(方式を満たしていれば) | なし |
| 役割 | 財産や身分関係を法的に動かす | 理由や気持ちを伝え、家族の納得を助ける |
どこまでが法的効力のある事項かは遺言でできること・できないことで詳しく整理しています。
付言事項に効力がないと何が起きるか
「効力がない」とは、具体的には次のような意味です。
- お願いを強制できない:「母の面倒を見てほしい」「実家は売らないで」と書いても、守らなかった人に法的な責任は生じません。
- 遺留分はなくならない:「遺留分を請求しないでほしい」と書いても、兄弟姉妹以外の相続人が持つ遺留分の権利は消えません。遺留分侵害額請求は、知った時から1年・相続開始から10年の期間内なら行使できます(遺留分とは)。
- 付言で財産の行き先は決まらない:付言の中で「預金は妹に」とだけ書くと、法定の事項として書いたのか、単なる希望なのかが曖昧になります。財産の分け方は、必ず本文の条項として書きます。
それでも付言事項が書かれる理由は、遺言を受け取る家族の気持ちに働きかけるためです。日本公証人連合会は、遺言があれば相続人が被相続人の意思を尊重して遺留分の主張を思いとどまる場合もあるとしています。理由の分からない不均等な分け方は、不信感を生みやすいものです。分け方の背景を本人の言葉で残しておくことが、話し合いの土台になることがあります(相続でもめる原因と防ぎ方)。
付言事項の書き方:形式と位置のルール
書く位置
付言事項は、財産の分け方などの本文の条項の後、日付・署名の前に「付言事項」と見出しを付けて書くのが一般的です。本文の条項と混ぜて書くと、どこまでが法的な指定かが分かりにくくなります。
自筆証書遺言なら付言も手書きで
自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自書し、押印する必要があります(民法968条1項)。パソコンなどで作れるのは、遺言書と一体として添付する財産目録だけです(同条2項)。付言事項も遺言書の本文に含めて書くなら、手書きにしておくのが安全です。法務局の保管制度を使う場合は、用紙のサイズや余白などの様式のルールも守ります(自筆証書遺言の書き方)。
公正証書遺言で作る場合
公正証書遺言で付言を添えたい場合は、伝えたい内容を事前にメモにまとめ、公証人との打ち合わせの際に相談しましょう。
分量の目安
決まりはありませんが、長すぎると要点がぼやけます。分け方の理由、感謝、お願いを中心に、読み手が一度で受け止められる長さにまとめるのがおすすめです。書ききれない思い出やこまごまとした希望は、エンディングノートや手紙に分けて残す方法もあります(エンディングノートの書き方)。
テーマ別の付言事項の文例
以下はあくまで一例です。そのまま写すより、ご自身の言葉に置き換えたほうが気持ちが伝わります。法的な効力はない点も、改めてご留意ください。
分け方の理由を伝える
介護や支えへの感謝を伝える
介護などの貢献は、遺言がなければ寄与分などの制度で調整を求めることになりますが、認められるには一定の要件があります。遺言で本人が評価を示しておく意味は大きいといえます(寄与分とは)。
相続人以外に財産を残す理由を伝える
家族へのお願いを伝える
遺留分に触れる
「遺留分を請求するな」と命令する書き方は避け、なぜその分け方にしたのかを伝える書き方にとどめるのが無難です。
避けたい付言事項の書き方
| 避けたい書き方 | 理由 | 言い換えの方向 |
|---|---|---|
| 特定の人を責める・比べる(「○○には苦労させられた」) | 読んだ人を傷つけ、対立を深めやすい | 多く残す人への感謝を中心に書く |
| 本文と食い違う内容 | どちらが本意か解釈で争いになる | 付言は理由の説明に徹し、分け方は本文に一本化 |
| 財産の指定を付言の中だけに書く | 法的な指定かどうかが曖昧になる | 財産の行き先は必ず本文の条項に |
| 実現を強制するような命令口調 | 効力がないうえ、反発を招きやすい | 「〜してくれたらうれしい」とお願いの形に |
| パスワードや暗証番号を書く | 遺言書は検認や手続きで多くの人の目に触れる | 機密情報は遺言書に書かない |
よくある質問
付言事項は書かなければいけませんか?
書かなくても遺言の効力には影響しません。付言事項は任意です。ただ、分け方に差をつける場合や、相続人以外に財産を残す場合は、理由を書き添えておくと家族の受け止め方が変わることがあります。
付言事項に「遺留分を請求しないで」と書けば、請求されませんか?
法的には請求を止められません。遺留分の権利はそのまま残ります。生前に遺留分を放棄してもらうには、相続人本人が家庭裁判所の許可を受ける必要があります(民法1049条)。付言は、あくまで気持ちを伝える手段と考えましょう。
付言事項だけを後から書き直せますか?
付言事項も遺言書の一部なので、書き直すときは遺言の方式に従う必要があります。手元保管の自筆証書遺言で訂正するなら民法の厳格な訂正方式に従うか、全文を作り直すのが確実です。
付言事項とエンディングノートは、どう使い分けますか?
遺言書の付言は、遺言の内容に関わる理由や家族へのお願いを短く伝えるのに向いています。葬儀の希望や思い出、連絡してほしい人など、遺言の内容と直接関係しないことは、エンディングノートに分けて書くと整理しやすくなります(遺言を家族に伝える方法)。
まとめ:分け方は本文で、理由と気持ちは付言で
付言事項は、遺言書に添える法的効力のないメッセージです。お願いを強制することも、遺留分をなくすこともできません。それでも、分け方の理由や感謝を本人の言葉で残すことで、遺言を受け取る家族の納得を助けることがあります。財産の行き先は必ず本文の条項として書き、付言は本文の後に見出しを付けて、理由と気持ちを前向きな言葉で伝えましょう。自筆証書遺言なら付言も手書きにしておくと安心です。文例は一例として参考にし、ご自身の言葉で書くことをおすすめします。
※本記事は2026年10月時点の民法と公的機関の案内をもとにした一般的な解説です。文例は一例であり、個別の事情に合わせた表現が必要です。付言事項に法的な効力はありません。遺言の内容や遺留分に関する判断は、公証役場や司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。
e-Gov法令検索「民法」第781条・第902条・第908条・第964条・第968条・第1006条・第1042条・第1048条・第1049条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
日本公証人連合会「遺言」(Q&A:遺言がないときはどうなるか)https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
法務省「03 遺言書の様式等についての注意事項」https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html
裁判所「遺留分放棄の許可」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_26/index.html






