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相続人同士の話し合い(遺産分割協議)がまとまらない、あるいは話し合いそのものができない。そんなときに使えるのが、家庭裁判所の遺産分割調停と審判です。結論から言うと、まずは調停で、裁判官と調停委員でつくる調停委員会を間に入れて合意をめざし、まとまらなければ自動的に審判に移って裁判官が分け方を決めます。申立ての費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と郵便切手で、自分で申し立てることもできます。この記事では、裁判所の手続き案内と最新の司法統計をもとに、申立ての準備から終わり方、期間の目安までを解説します。
遺産分割がまとまらないと困ること
遺産分割が決まらないまま時間が過ぎると、次のような影響が出ます。
- 相続税の特例が使えないまま申告:申告期限(知った日の翌日から10か月)は分割が済んでいなくても延びません。未分割のまま申告すると、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えない申告になります
- 不動産が共有のまま:売却や建て替えに全員の同意が必要になる。相続登記の義務(3年)にも対応が必要
- 特別受益・寄与分の主張ができなくなる:相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、原則として法定相続分を基準に分けることになる(民法904条の3)
相続税は、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、3年以内に分割が決まったときに特例を受け直せます。詳しくは相続税の申告期限は10か月をご覧ください。
調停を申し立てる前にできること
東京家庭裁判所は、話し合いを持たずに申し立てると、かえって反発や不信感を招き、速やかな解決につながらないことがあると案内しています。申し立てる前に、次の点を試してみる価値があります。
- 財産の情報を全員にそろえる:財産目録と資料の写しを全員に渡す
- 対立点を書き出す:相続人の範囲か、遺産の範囲か、評価か、取り分か、分け方か
- 分け方の選択肢を広げる:現物・代償・換価を組み合わせる
- 第三者を入れる:専門家に法的な見通しを聞く。相手との交渉を代理できるのは弁護士です(相続で弁護士に頼むべきケース)
協議の進め方は遺産分割協議の進め方で詳しく解説しています。
協議・調停・審判の違い
| 段階 | 誰が決めるか | 特徴 |
|---|---|---|
| 協議 | 相続人全員 | 自由に決められる。全員の合意が必要 |
| 調停 | 相続人全員(調停委員会が助言・あっせん) | 非公開。相手と別々の部屋で話を聞いてもらえる。合意できれば調停成立 |
| 審判 | 裁判官 | 調停が不成立になると自動的に移る。法定相続分などを基準に、一切の事情を考慮して決める |
最初から審判を申し立てることもできますが、東京家庭裁判所は、まず話し合いによる解決をはかるのが適当と考えられるため、裁判所の判断で調停から始めるのが一般的としています。
遺産分割調停の申立て:申立先・費用・必要書類
| 項目 | 内容(裁判所の案内) |
|---|---|
| 申し立てられる人 | 共同相続人、包括受遺者、相続分の譲受人 |
| 相手方 | 申立人以外の相続人全員 |
| 申立先 | 相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所 |
| 収入印紙 | 被相続人1人につき1,200円分 |
| 郵便切手 | 裁判所ごとに異なる(例:東京家庭裁判所は相手方5人までで2,800円分) |
主な必要書類は次のとおりです。
- 申立書と、その写しを相手方の人数分
- 事情説明書、進行に関する照会回答書、送達場所等届出書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本と、住民票または戸籍附票
- 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券の写しなど)
- 遺言書や遺産分割協議書がある場合はその写し
相続人が親や兄弟姉妹の場合は、さらに父母の出生から死亡までの戸籍などが必要です。戸籍の代わりに法定相続情報一覧図の写しを出せる場合もあるので、申し立てる家庭裁判所に確認してください。申立書の書式と記載例は、裁判所のウェブサイトで入手できます。
調停で話し合う5つの順番
裁判所の資料「遺産分割調停の進め方」では、次の順番で一つずつ問題を整理し、合意をめざします。
| 順番 | 確認すること | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 相続人の範囲 | 誰が相続人か | 戸籍で確定。戸籍と事実が違う場合は人事訴訟などが必要 |
| 2. 遺産の範囲 | 何を分けるか | 亡くなった時点で持っていて、いまも存在する財産が対象 |
| 3. 遺産の評価 | いくらと見るか | 合意できなければ鑑定。鑑定費用は相続人があらかじめ納める |
| 4. 各相続人の取得額 | 誰がいくら取得するか | 法定相続分を基に、特別受益や寄与分があれば修正 |
| 5. 遺産の分割方法 | どう分けるか | 現物分割・代償分割・換価分割など |
調停の1回の流れと進み方
東京家庭裁判所の案内によると、調停は平日の昼間に開かれ、1回の時間はおおむね1時間45分程度です。手続きは非公開で、申立人と相手方は別々の待合室で待ち、調停委員が交互に(または同時に)話を聴きます。原則として、各回の始めと終わりには当事者全員が調停室に入り、手続きや次回までの課題の説明を受けます。
- 調停には、原則として相続人本人の出頭が必要
- 都合が悪い場合は、事前に担当書記官へ連絡する
- 電話会議などの方法で手続きに参加できる場合もある
- 主張を裏付ける資料は自分で集めて提出する
- 期日の録音・録画・撮影は禁止されている
調停の終わり方:成立・調停に代わる審判・審判
| 終わり方 | 内容 | 効力 |
|---|---|---|
| 調停成立 | 全員が合意し、調書に記載される | 確定した審判と同じ効力(家事事件手続法268条) |
| 調停に代わる審判 | 合意に至らないが、裁判所が相当と認めるとき、一切の事情を考慮して出す審判 | 2週間以内に異議がなければ確定。適法な異議があれば効力を失い、審判手続へ |
| 審判(調停不成立) | 調停の申立て時に審判の申立てがあったものとみなされ、裁判官が分け方を決める | 審判の告知から2週間以内に即時抗告できる |
| 取下げ | 申立人が申立てを取り下げる | 手続きが終わる(遺産分割は未了のまま) |
審判では、裁判官が、遺産に属する物や権利の種類・性質その他一切の事情を考慮して判断します。当事者の希望どおりになるとは限らず、遺産の競売などによる換価が命じられることもあるため(家事事件手続法194条)、できるだけ調停の段階で合意をめざすことが勧められます。
統計で見る遺産分割事件:件数・期間・弁護士の関与
最高裁判所の「令和7年 司法統計年報(家事編)」によると、2025年に全国の家庭裁判所で終わった遺産分割事件は16,431件でした。
| 終わり方 | 件数 | 割合(目安) |
|---|---|---|
| 調停成立 | 7,033件 | 約43% |
| 調停に代わる審判 | 5,306件 | 約32% |
| 取下げ | 2,405件 | 約15% |
| 審判(認容) | 1,366件 | 約8% |
| その他(調停をしない・却下など) | 321件 | 約2% |
| 審理期間 | 件数 | 割合(目安) |
|---|---|---|
| 6か月以内 | 5,760件 | 約35% |
| 6か月超〜1年以内 | 5,398件 | 約33% |
| 1年超〜2年以内 | 3,839件 | 約23% |
| 2年超 | 1,434件 | 約9% |
約3分の2の事件が1年以内に終わる一方、1年を超える事件も3割あります。また、代理人として弁護士が関与した事件は13,062件で、全体の約8割でした。調停は本人だけでも申し立てられますが、資料の整理や主張の組み立てに専門家の力を借りる人が多いことが分かります。
寄与分・特別受益を主張するとき
遺産分割調停では、遺産の範囲と評価が定まった後に、特別受益や寄与分の主張を聴きます。主張する場合は、裏付けとなる資料を必ず準備しておきます。資料がないと、話し合いの席でも取り上げられないことがあります。寄与分については「寄与分を定める処分調停」(申立人1人につき収入印紙1,200円分)を別に申し立て、遺産分割調停と一緒に進めるのが通常です。
調停中にお金が必要になったら
遺産分割の審判や調停の申立てがあった後、相続債務の弁済や相続人の生活費などのために必要があると家庭裁判所が認めるときは、申立てにより、特定の預貯金の全部または一部を仮に取得させることができます(家事事件手続法200条3項)。ただし、他の相続人の利益を害するときは認められません。少額であれば、協議や調停の前でも、1つの金融機関につき150万円を上限とする預貯金の払戻し制度(民法909条の2)を使えます。
よくある質問
遺産分割調停は弁護士なしでもできますか?
できます。申立書の書式と記載例は裁判所のウェブサイトで手に入り、本人だけで進める人もいます。ただし統計上は約8割の事件で弁護士が代理人として関与しています。相手が弁護士を立てた、主張や資料の整理が難しいといった場合は、弁護士に相談することを検討してください。
相手が調停に来ない場合はどうなりますか?
合意ができないため、調停は成立しません。裁判所が相当と認める場合は調停に代わる審判が出されることがあり、2週間以内に異議がなければ確定します。調停が不成立になった場合は、自動的に審判手続に移ります。
遺産分割調停にはどのくらい時間がかかりますか?
2025年の統計では、約35%が6か月以内、約68%が1年以内に終わっています。相続人の人数、不動産の評価、特別受益や寄与分の争いの有無などによって大きく変わります。
遠方の家庭裁判所に申し立てられたら、毎回行く必要がありますか?
原則として本人の出頭が求められますが、電話会議などの方法で手続きに参加できる場合があります。事情があるときは、進行に関する照会回答書に具体的に書くか、担当書記官に相談してください。
まとめ
遺産分割がまとまらないときは、家庭裁判所の調停で、調停委員会の助言を受けながら合意をめざします。費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と郵便切手で、相続人の範囲、遺産の範囲、評価、取得額、分割方法の順に整理していきます。合意できなければ調停に代わる審判や審判で決着し、2025年の統計では約3分の2の事件が1年以内に終わっています。相続税の申告期限や10年の区切りもあるため、話し合いが止まったら放置せず、早めに次の一歩を考えましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令と裁判所・国税庁の案内をもとにした一般的な解説です。郵便切手の額や提出書類は家庭裁判所ごとに異なります。統計の割合は公表された件数から計算した目安です。具体的な手続きは申し立てる家庭裁判所に、法的な判断は弁護士などの専門家にご確認ください。
裁判所「遺産分割調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
裁判所「寄与分を定める処分調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_23/index.html
裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html
東京家庭裁判所「遺産分割調停の申立て」(遺産分割調停案内、遺産分割調停(審判)を申し立てる方へ、遺産分割調停の進め方)https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/isanbunkatu/index.html
最高裁判所「令和7年 司法統計年報(家事編)」第44表・第45表・第47表 https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/toukei/toukei-excel-16677.xlsx
e-Gov法令検索「家事事件手続法」第86条・第194条・第200条・第245条・第268条・第272条・第284条・第286条・第287条 https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
e-Gov法令検索「民法」第904条の3・第906条・第907条・第909条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm
国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm






