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相続人が一人もいない、あるいは全員が相続放棄をした——そのとき、亡くなった方の預金や家、借金はどうなるのでしょうか。結論から言うと、利害関係人などの申立てを受けて家庭裁判所が「相続財産清算人」を選び、その人が借金の支払いなどの清算をして、残った財産は最終的に国庫に入ります。2023年4月1日施行の民法改正で、名称が「相続財産管理人」から変わり、手続きの期間も短くなりました。この記事では、清算人が選ばれる場面、申立ての方法と費用、手続きの流れを裁判所と法務省の資料をもとに整理します。
相続財産清算人とは:相続人がいない財産を清算する人
民法951条は、相続人のあることが明らかでないとき、相続財産を法人(相続財産法人)とすると定めています。この財産を管理し、借金を返し、残りを国に引き継ぐ役目を負うのが相続財産清算人です(民法952条)。裁判所の案内では、相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する人がいなくなった場合も含まれるとされています。
| 清算人が必要になる典型例 | 具体例 |
|---|---|
| もともと相続人がいない | 配偶者・子・親・兄弟姉妹がいない独身の方が亡くなった |
| 相続人全員が放棄した | 借金が多く、子も兄弟姉妹も全員が相続放棄をした |
| 相続人がいるか分からない | 戸籍をたどっても相続人の存否が明らかでない |
清算人に資格は必要ありませんが、裁判所は被相続人との関係や利害関係の有無などを考えて最も適任と認められる人を選び、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることもあると案内しています。
2023年4月の民法改正で変わった2つの点
名称が「相続財産管理人」から「相続財産清算人」へ
法務省の資料によると、令和3年の民法改正(2023年4月1日施行)で、相続人のあることが明らかでない場合の「相続財産の管理人」は、職務の内容に合わせて「相続財産の清算人」に名称が改められました。古い記事で「相続財産管理人」と書かれているのは、多くがこの制度のことです。
あわせて、相続が始まった後いつでも相続財産の保存のために管理人を選べる仕組みが整えられました(民法897条の2)。こちらは財産を守るための「相続財産管理人」で、清算までは行いません。名前が似ているので、目的で区別しましょう。
公告の手続きが短くなった(最短10か月→6か月)
| 改正前 | 改正後(2023年4月1日〜) | |
|---|---|---|
| 公告の進め方 | ①選任の公告(2か月)→②債権者・受遺者への請求申出の公告(2か月以上)→③相続人捜索の公告(6か月以上)を順番に行う | 選任と相続人捜索を1つの公告(6か月以上)にまとめ、並行して債権者・受遺者への公告(2か月以上)を行う |
| 権利関係の確定に必要な期間 | 最低でも10か月 | 最低6か月 |
なお、施行日(2023年4月1日)より前に旧法で相続財産管理人が選ばれた事件は、公告手続などは従前の例によるとされています。新旧どちらのルールかは、選ばれた時期が基準です。
相続財産清算人の申立て:誰が・どこへ・いくら
| 項目 | 内容(裁判所の手続案内より) |
|---|---|
| 申立てできる人 | 利害関係人(被相続人の債権者、特定遺贈を受けた人、特別縁故者など)、検察官 |
| 申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円(家庭裁判所の指示があってから納める) |
| 予納金 | 財産から管理費用や清算人の報酬をまかなえない可能性がある場合、申立人が相当額を納めることがある |
主な添付書類
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍、父母の出生から死亡までの戸籍
- 亡くなっている子・兄弟姉妹・おいめいなどがいる場合はその戸籍(相続人がいないことを示すため)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 財産を示す資料(不動産の登記事項証明書、通帳の写しや残高証明書など)
- 利害関係を示す資料(金銭消費貸借契約書の写しなど)、清算人の候補者がいればその住民票など
相続人がいないことを示すために戸籍を広くたどる必要があり、集めるのに時間がかかる点も見込んでおきましょう。
選任から国庫への引継ぎまでの流れ
裁判所のQ&Aで示されている一般的な流れは次のとおりです。途中で財産がなくなれば、その時点で終了します。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 選任・相続人捜索の公告 | 家庭裁判所が清算人を選んだことと、相続人がいれば名乗り出るよう6か月以上の期間を定めて公告。期間内に現れなければ、相続人がいないことが確定 |
| 2. 債権者・受遺者への公告 | 清算人が2か月以上の期間を定めて、請求の申出をするよう公告(1の期間内に終わるように行う) |
| 3. 特別縁故者の申立て | 1の期間満了後3か月以内に、特別縁故者が財産分与を申し立てることがある |
| 4. 換価・支払い | 必要に応じて家庭裁判所の許可を得て不動産や株などを売却し、債権者・受遺者へ支払う。分与の審判があれば特別縁故者に分与 |
| 5. 国庫への引継ぎ | 残った財産を国庫に引き継いで終了(民法959条) |
特別縁故者への財産分与は、内縁の配偶者や療養看護に努めた人などが対象になり得る制度です。要件や税金は特別縁故者とはで詳しく解説しています。
相続放棄をした家族と清算人の関係
全員が相続放棄をしても、放棄の時に相続財産を現に占有していた人は、相続財産清算人などに引き渡すまで、その財産を保存しなければなりません(民法940条)。たとえば亡くなった方と同居していた家に住み続けている場合などです。清算人が選ばれれば、その人に引き渡すことで保存の義務は終わります。具体的な範囲は相続放棄後の管理義務で整理しています。
放棄した人が清算人の選任を申し立てるかどうかは、財産の内容や予納金の負担を踏まえて判断することになります。放棄の手続きの全体は相続放棄の手続きをご覧ください。
財産を国庫に入れたくないなら:生前の備え
相続人がいない方が何もしないまま亡くなると、清算後に残った財産は国のものになります。お世話になった人や団体に残したいなら、遺言書で遺贈先を指定しておくことが基本の備えです。
- 相続人がいない方の全体像:独身・未婚の人の相続、おひとりさまの終活・相続
- 社会に役立てたい場合:遺贈寄付とは
なお、「相続土地国庫帰属制度」は、相続人が土地を自ら国に引き渡すための別の制度で、相続財産清算人の手続きとは異なります(相続土地国庫帰属制度とは)。
よくある質問
Q. 相続財産清算人と相続財産管理人は何が違いますか?
2023年4月以降、相続人のいることが明らかでない場合に清算まで行うのが「相続財産清算人」です。「相続財産管理人」という名前は、相続財産の保存のために選ばれる人(民法897条の2)などに使われています。目的が清算か保存かで区別します。
Q. 清算人には家族がなれますか?
資格は不要とされていますが、誰を選ぶかは家庭裁判所が利害関係などを考えて決めます。候補者を挙げることはできますが、必ず選ばれるとは限りません。
Q. 手続きにはどのくらい時間がかかりますか?
改正後は、相続人捜索の公告だけで6か月以上かかります。その後に特別縁故者の申立て期間(3か月)や財産の売却・支払いが続くため、財産の内容によってはさらに長くなります。
Q. 亡くなった方にお金を貸していました。どうすれば回収できますか?
債権者は利害関係人として清算人の選任を申し立てられます。清算人が選ばれた後は、公告の期間内に請求の申出をすることが大切です。個別の回収見込みは専門家にご相談ください。
まとめ
相続人がいない、または全員が相続放棄をした場合、利害関係人や検察官の申立てで家庭裁判所が相続財産清算人を選びます。2023年4月の改正で名称が変わり、公告は「6か月以上」の1本にまとまって、権利関係の確定までの最低期間が10か月から6か月に短縮されました。申立てには収入印紙800円と郵便切手、官報公告料のほか、予納金が必要になることもあります。清算後に残った財産は国庫に入るため、残したい相手がいる方は、元気なうちに遺言で意思を形にしておきましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令と裁判所・法務省の公式資料をもとにした一般的な解説です。費用(郵便切手・予納金など)や手続きの進み方は、裁判所や個別の事情によって異なります。具体的な手続きは家庭裁判所や司法書士・弁護士などの専門家にご確認ください。
裁判所「相続財産清算人の選任」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html
裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」(相続財産清算人に関する問い)https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html
法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」https://www.moj.go.jp/content/001444017.pdf
e-Gov法令検索「民法」第897条の2・第940条・第951条〜第959条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089






