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「長年一緒に暮らした内縁の夫が亡くなった。相続人はいないけれど、住んでいた家はどうなるの?」——こうした場面で関係してくるのが特別縁故者への相続財産の分与です。結論から言うと、相続人がいないことが確定した後、期限内に家庭裁判所へ申し立て、相当と認められれば、清算後に残った財産の全部または一部を受け取れる可能性があります。ただし自動的にもらえるものではなく、分与を受けた財産には相続税がかかることもあります。この記事では、特別縁故者になり得る人、申立ての期限と流れ、税金の扱いを、裁判所と国税庁の情報をもとに整理します。
特別縁故者とは:相続人がいないときの例外的な受け取り手
民法958条の2は、相続人として権利を主張する人が現れなかった場合に、家庭裁判所が相当と認めるときは、次のような人の請求によって、清算後に残るべき相続財産の全部または一部を与えることができると定めています。
| 法律が挙げる類型 | 考えられる例 |
|---|---|
| 被相続人と生計を同じくしていた者 | 内縁の配偶者、事実上の養子として一緒に暮らしていた人 |
| 被相続人の療養看護に努めた者 | 長期間にわたり介護や看病を担った人 |
| その他被相続人と特別の縁故があった者 | 上の2つに準じるほど密接な関係にあった人 |
右の列はあくまで例で、誰が認められるか、どれだけ分与されるかは家庭裁判所が個別に判断します。単に親しかった、ときどき様子を見に行っていた、というだけでは足りないと考えておくのが無難です。
特別寄与料との違い
介護に尽くした人が報われる制度には、もう一つ特別寄与料(民法1050条)があります。こちらは相続人がいる場合に、相続人ではない親族が相続人に金銭を請求する制度です。親族でない人(内縁の配偶者や知人など)は対象外で、相続人がいない場合は特別縁故者の制度を考えることになります。違いは寄与分とは、親の介護と相続でも解説しています。
財産分与を受けるまでの流れと期限
特別縁故者の申立ては、相続財産清算人の手続きが進んだ後にしかできません。裁判所の案内をもとに流れを示します。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 相続財産清算人の選任 | 利害関係人(特別縁故者を含む)などが家庭裁判所に申し立て、清算人が選ばれる |
| 2. 相続人捜索の公告 | 家庭裁判所が6か月以上の期間を定めて公告。期間内に相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定 |
| 3. 特別縁故者の申立て | 公告で定められた期間の満了後3か月以内に、家庭裁判所へ財産分与を申し立てる |
| 4. 審判 | 家庭裁判所が縁故の内容などを踏まえ、分与するか、何をどれだけ分与するかを判断 |
| 5. 分与・国庫への引継ぎ | 清算人が審判に従って分与し、残りは国庫へ |
清算人の選任から国庫への引継ぎまでの全体像は相続財産清算人とはで詳しく解説しています。
申立ての方法
| 項目 | 内容(裁判所の手続案内より) |
|---|---|
| 申立てできる人 | 被相続人と生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者、その他特別の縁故があった者 |
| 申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手(裁判所ごとに異なる) |
| 標準的な添付書類 | 申立書、申立人の住民票または戸籍附票(審理に必要なら追加資料を求められることがある) |
添付書類は少なめですが、審理では関係の実態が問われます。同居の期間が分かる住民票の履歴、生活費を出し合っていた記録、介護の記録や病院・施設とのやりとりなど、関係を裏づける資料を整理しておくと説明しやすくなります。
なお、特別縁故者になり得る人は、手続きの入口である相続財産清算人の選任も、利害関係人として申し立てられます。その場合、申立人が予納金を納めることがある点も含めて、事前に家庭裁判所へ確認しておきましょう。
特別縁故者が受け取った財産と相続税
分与された財産は、税金の面では「遺贈で取得したもの」として扱われます。国税庁の資料で確認できる範囲を整理します。
| 論点 | 扱い |
|---|---|
| 課税の扱い | 与えられた時の財産の時価に相当する金額を、被相続人から遺贈により取得したものとみなす(相続税法4条1項) |
| 申告の期限 | 分与により新たに申告が必要になった人は、その事由が生じたことを知った日の翌日から10か月以内(相続税法29条1項) |
| 2割加算 | 被相続人の一親等の血族・配偶者以外の人が遺贈で財産を取得した場合は、相続税額に2割が加算される(国税庁 No.4157) |
| 基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数。相続の放棄をした人がいても、放棄がなかったものとした場合の人数で数える(国税庁 No.4152) |
確実に残したいなら、生前の遺言が基本
特別縁故者への分与は、清算人の選任から公告・審判まで長い期間がかかり、認められる保証もありません。分与される範囲も家庭裁判所が決めます。内縁の配偶者や介護をしてくれた人に財産を残したいなら、本人が元気なうちに遺言書で遺贈先を指定しておくのが確実な方法です。
- 内縁・事実婚の関係で備えておきたいこと:事実婚・内縁の配偶者と相続
- 遺言で財産を渡す方法:遺贈とは
遺言があれば、相続人がいなくても、遺言に従って財産が渡される道が開けます。遺言の内容を実現する遺言執行者を決めておくと、手続きはさらに進めやすくなります。
よくある質問
Q. 内縁の妻なら必ず特別縁故者として認められますか?
必ずではありません。生計を同じくしていたことは法律が挙げる類型の一つですが、認めるかどうか、どれだけ分与するかは家庭裁判所が事情を見て判断します。
Q. 相続人が全員相続放棄をした場合も申し立てられますか?
相続人全員が放棄して相続する人がいなくなった場合も、相続財産清算人の手続きの対象になります。その手続きの中で相続人がいないことが確定すれば、期限内に財産分与を申し立てることができます。
Q. 期限を過ぎてしまったらどうなりますか?
民法は、公告期間の満了後3か月以内に請求しなければならないと定めています。期限を過ぎると申し立てられないと考え、早めに準備してください。分与されなかった財産は、最終的に国庫に入ります。
Q. 家などの不動産をそのまま受け取ることはできますか?
分与の対象は「清算後に残るべき相続財産の全部又は一部」で、何をどう分与するかは家庭裁判所が判断します。借金の返済のために不動産が売却されることもあるため、希望がある場合は申立ての際に事情を伝えましょう。
まとめ
特別縁故者とは、相続人がいないときに、家庭裁判所の判断で財産の分与を受けられる可能性がある人で、内縁の配偶者や療養看護に努めた人などが該当し得ます。申立ては、相続財産清算人のもとで行われる相続人捜索の公告期間が満了してから3か月以内。分与された財産は遺贈とみなされ、相続税の申告が必要になることもあります。手続きは長く、認められる保証もないため、大切な人に残したい方は、元気なうちに遺言書を用意しておきましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令と裁判所・国税庁の公式情報をもとにした一般的な解説です。特別縁故者として認められるか、分与の範囲、相続税の申告の要否や税額は個別の事情によって異なります。手続きは家庭裁判所や弁護士・司法書士に、税金は税務署・税理士にご確認ください。
裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_16/index.html
裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」(相続財産清算人・特別縁故者に関する問い)https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html
国税庁 税務大学校「相続税法(基礎編)令和8年度版」https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/souzoku/pdf/all.pdf
国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4157.htm
国税庁「No.4152 相続税の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
e-Gov法令検索「民法」第958条・第958条の2・第959条・第1050条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
e-Gov法令検索「相続税法」第4条・第29条 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073






