不動産の相続

賃貸アパート・マンションを相続したら|家賃・敷金・申告の注意点

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「父が持っていたアパートを相続することになった。入居者さんの家賃や敷金はどうなるの?」——賃貸物件の相続では、建物や土地だけでなく、入居者との契約や預かったお金も一緒に引き継ぎます。結論から言うと、相続人は大家(賃貸人)の立場と敷金の返還義務をそのまま引き継ぎ、入居者との契約は相続で終わりません。また、遺産分割が終わるまでの家賃は、最高裁判所の判例で各相続人が相続分に応じて取得するとされています。この記事では、賃貸アパート・マンションを相続したときに確認したいことを、民法・判例・国税庁の情報をもとに整理します。

賃貸物件の相続で引き継ぐもの

民法896条は、相続人は相続開始の時から、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。賃貸物件なら、次のようなものをまとめて引き継ぐことになります。

引き継ぐもの 内容
土地・建物 相続登記が必要(取得を知った日から3年以内)
賃貸人(大家)の立場 家賃を受け取る権利、修繕などの義務。入居者は住み続けられる
敷金の返還義務 退去時に、未払い家賃などを差し引いて返す義務
未収の家賃 亡くなる前に支払期日が来ていたのに未払いの家賃を請求する権利
ローン アパートローンなどの残債。団体信用生命保険の有無で変わる
各種契約 管理会社との管理委託、清掃、保険などの契約

家賃という収入だけでなく、敷金の返還やローン、修繕といった義務も一緒に引き継ぐ点を押さえておきましょう。

まず確認したい書類と情報

  • 賃貸借契約書:入居者ごとの家賃、契約期間、敷金の額、更新の条件
  • 入居者の一覧(レントロール)と入金の記録:滞納や空室の状況
  • 管理委託契約書:管理会社の業務範囲と手数料、家賃の振込先
  • ローンの契約書・返済予定表:残高と、団体信用生命保険の加入状況
  • 確定申告書の控え・帳簿:毎年の収入と経費、青色申告かどうか
  • 火災保険などの保険証券:契約者の変更が必要になる

管理会社に任せていた場合は、まず管理会社に連絡し、入居状況と家賃の流れを確認するのが近道です。ローンに団体信用生命保険が付いていれば、残債が保険金で返済されることがあります(団信と住宅ローンの相続)。

遺産分割までの家賃は誰のもの?(最高裁平成17年9月8日判決)

誰がアパートを相続するかが決まるまでの間にも、家賃は毎月入ってきます。この家賃の扱いについて、最高裁判所は次のように判断しています。

判例のポイント相続開始から遺産分割までの間に、共同相続した不動産から生じる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない(最高裁判所第一小法廷 平成17年9月8日判決)。

遺産分割には相続開始の時にさかのぼって効力が生じるという原則(民法909条)がありますが、この判例によれば、分割前の家賃はさかのぼって物件を取得した人のものになるわけではありません。たとえば、長男が後でアパートを取得することになっても、それまでの家賃は相続人それぞれが相続分に応じて取得したものになります。

時期 家賃の扱い(一般的な整理)
亡くなる前に支払期日が来ていた家賃 亡くなった方の財産(相続財産)
亡くなってから遺産分割まで 各相続人が相続分に応じて取得(上記判例)
遺産分割の後 物件を取得した相続人のもの

実際には、家賃は亡くなった方の口座や管理会社を通じて入ってくるため、誰が預かり、どう分けるかでもめやすい部分です。代表者が預かって記録をつけ、後で精算するなど、相続人全員で早めに取り決めておくと安心です。亡くなった方の口座は、金融機関が死亡を知ると入出金が止まるため、振込先の変更も必要になります(亡くなった人の銀行口座の凍結)。

敷金はどうなる?(民法622条の2)

民法622条の2は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定めています。賃貸人は、賃貸借が終了し、物件の返還を受けたときなどに、受け取った敷金から未払いの家賃などを差し引いた残額を返さなければなりません。

  • 相続人は賃貸人の立場を引き継ぐので、亡くなった方が受け取っていた敷金も、退去時に相続人が返すことになる
  • 亡くなった方が敷金を別に保管していなくても、返還義務はなくならない
  • 預かった敷金の額は、契約書や入金記録で入居者ごとに確認しておく

遺産分割でアパートを取得しない相続人がいる場合、敷金の返還を誰が負担するかも分割の内容に含めて決めておくと、後のトラブルを防げます。

入居者・管理会社への連絡と、分割前の管理のルール

賃貸借契約は相続で終わらないので、入居者に新しく契約し直してもらう必要は通常ありません。主に次の連絡をします。

  • 管理会社に相続の発生と、当面の連絡窓口になる相続人を伝える
  • 家賃の振込先を変える場合は、入居者に書面で知らせる
  • 遺産分割で取得者が決まったら、新しい賃貸人と振込先を改めて知らせる

遺産分割前のアパートは相続人の共有なので、管理のことを決めるには民法の共有のルールが適用されます。2023年4月施行の改正後のルールでは、修繕などの管理は相続分(持分)の過半数で決められますが、普通の建物賃貸借の新しい契約は、基本的に共有者全員の同意が必要とされています(期間3年以内の定期建物賃貸借などは過半数で可)。空室に新しい入居者を入れたいときは、相続人全員で方針をそろえておきましょう。共有のルールは共有不動産の解消方法でも整理しています。

相続税の評価:貸家と貸家建付地

人に貸している建物と土地は、自分で使っている場合より相続税の評価が低くなる仕組みがあります。

財産 評価の考え方(国税庁)
貸家(建物) 自用の家屋の価額から、借家権割合と賃貸割合に応じた額を差し引く(財産評価基本通達93)
貸家建付地(土地) 自用地としての価額 −(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

借地権割合と借家権割合は、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認します。賃貸割合は空室の状況で変わりますが、一時的な空室にすぎないと認められる部分は、賃貸されていたものとして扱える場合があります。

小規模宅地等の特例(貸付事業用)亡くなった方の貸付事業に使われていた宅地は、一定の要件を満たせば、200㎡まで評価額を50%減額できます。相続開始前3年以内に新たに貸付けを始めた宅地は原則として対象外で、取得した親族が相続税の申告期限までに貸付事業を引き継ぎ、その宅地を持ち続けていることなどが必要です。詳しくは小規模宅地等の特例とはを参照してください。

また、亡くなった時点で確実と認められる債務は、遺産の総額から差し引けます(国税庁 No.4126)。アパートローンの残高や預かり敷金の扱いは、契約内容を示して税理士に確認しましょう。評価と申告の要否は財産全体で変わるため、具体的な計算は専門家に任せるのが安心です。

相続後の申告と期限

手続き 期限の目安
亡くなった方の準確定申告(亡くなった年の不動産所得など) 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内
相続人の青色申告承認申請(亡くなった方が青色申告者の場合) 死亡日が1月1日〜8月31日:死亡の日から4か月以内/9月1日〜10月31日:その年12月31日/11月1日〜12月31日:翌年2月15日
相続人の青色申告承認申請(亡くなった方が白色申告者の場合) その年1月16日以後に業務を承継した場合、承継した日から2か月以内
相続人自身の確定申告(受け取った家賃の不動産所得) 原則として翌年3月15日まで
相続税の申告・納付 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内
相続登記 取得を知った日から3年以内

家賃を受け取った相続人は、その分について自分の不動産所得として申告が必要になる場合があります。青色申告の特典を引き続き使いたいなら、承認申請の期限に注意してください(国税庁 No.2070)。準確定申告は準確定申告とはで解説しています。

よくある質問

大家が亡くなったら、入居者は出ていかなければなりませんか?

いいえ。相続人が賃貸人の立場を引き継ぐため、賃貸借契約はそのまま続きます。入居者に退去を求めるには、契約や借地借家法のルールに従った手続きが必要です。

遺産分割の前に、家賃を一人が全部受け取っていました。

判例によれば、遺産分割までの家賃は各相続人が相続分に応じて取得するものです。一人が預かっている場合は、記録をもとに相続人の間で精算方法を話し合いましょう。話し合いがまとまらない場合は、専門家に相談してください。

退去する入居者に敷金を返したいのですが、亡くなった父の口座が凍結されています。

敷金の返還義務は相続人が引き継いでいるので、口座の凍結とは別に、相続人が返還することになります。誰がいったん立て替えるか、遺産分割でどう精算するかを相続人の間で決めておきましょう。

アパート経営を続けるか売るか迷っています。

収支、修繕の見込み、ローンの残高、管理の手間、相続人の意向を比べて判断します。売る場合も貸し続ける場合も、税金の扱いが変わることがあります。選択肢の比べ方は相続不動産の活用方法を参照してください。

まとめ:賃貸物件は「契約・お金・期限」を最初に整理

賃貸アパート・マンションを相続すると、建物と土地に加えて、賃貸人の立場、敷金の返還義務、ローンなどを引き継ぎます。入居者との契約は続き、遺産分割までの家賃は判例上、各相続人が相続分に応じて取得します。敷金は退去時に相続人が返す必要があります。相続税では貸家・貸家建付地の評価や小規模宅地等の特例があり、準確定申告や青色申告の承認申請には短い期限があります。まず契約書と入金・ローンの記録をそろえ、相続人全員で家賃の預かり方を決めておきましょう。

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※本記事は2026年10月時点の法令・判例と国税庁などの案内をもとにした一般的な解説です。家賃の精算方法、敷金の負担、税金の扱いは、契約内容や個別の事情によって異なります。具体的なご判断は、税理士・司法書士・弁護士などの専門家や税務署にご確認ください。

参考にした公的情報・公式案内(2026年10月確認)
裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成17年9月8日判決(平成16(受)1222)」https://www.courts.go.jp/hanrei/52401/detail2/index.html
e-Gov法令検索「民法」第252条・第622条の2・第896条・第898条・第909条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」(PDF)https://www.moj.go.jp/content/001444020.pdf
国税庁「No.4614 貸家建付地の評価」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
国税庁「財産評価基本通達 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利(93 貸家の評価)」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/03/01.htm
国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4126.htm
国税庁「No.2070 青色申告制度」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm

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