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「配偶者も子もいない自分に何かあったら、入院の手続きや、亡くなった後の片づけは誰がしてくれるのだろう」——おひとりさまの終活は、この不安から始まることが多いものです。結論から言うと、おひとりさまの終活は「判断力が落ちたとき」「亡くなった直後」「財産の行き先」の3つの場面ごとに、頼む人と方法を決めておくことが柱になります。家族が自然に動いてくれる前提がないぶん、仕組みと書面で備える必要があるからです。この記事では、自分の相続人の確認から、遺言・任意後見・死後事務委任の使い分け、事業者に頼むときの注意までを公的資料をもとに整理します。
おひとりさまの終活で決めておくこと一覧
| 場面 | 困ること | 主な備え |
|---|---|---|
| 元気なうち | 急な体調の変化に誰も気づかない | 見守り、地域包括支援センターとのつながり |
| 判断力が落ちたとき | 預金の管理や施設との契約ができない | 任意後見契約(財産管理の委任契約と組み合わせることも) |
| 入院・施設入所 | 身元保証人や緊急連絡先を求められる | 頼める人の確保、身元保証サービスの検討 |
| 亡くなった直後 | 葬儀、役所の手続き、部屋の明け渡しをする人がいない | 死後事務委任契約 |
| 財産の行き先 | 思いと違う人に渡る、国庫に入る | 遺言書(遺言執行者の指定) |
全部を一度に決める必要はありません。まずは次の「自分の相続人は誰か」を確認すると、何が必要かが見えてきます。
まず確認したい:自分の相続人は誰か
配偶者も子もいない場合でも、相続人がいないとは限りません。民法では次の順で相続人が決まります。
| 状況 | 相続人 |
|---|---|
| 父母や祖父母が存命 | 直系尊属(親等の近い人が先) |
| 直系尊属がおらず、兄弟姉妹がいる | 兄弟姉妹。亡くなった兄弟姉妹がいれば、その子(甥・姪)が代わりに相続 |
| 上のどちらもいない | 相続人なし |
兄弟姉妹の代わりに相続できるのは甥・姪までで、甥・姪の子には引き継がれません。疎遠な兄弟姉妹や、会ったことのない甥・姪が相続人になるケースも少なくありません。相続人の範囲は独身・未婚の人の相続で詳しく解説しています。
相続人がいないと財産はどうなるか
相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人となり(民法951条)、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が、債務の支払いなどの清算を行います。そのうえで、生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人などの特別縁故者が請求すれば、家庭裁判所の判断で財産の全部または一部が分け与えられることがあり(同法958条の2)、処分されなかった財産は国庫に帰属します(同法959条)。お世話になった人に確実に渡したいなら、特別縁故者の制度に頼るのではなく、遺言で指定しておくのが確実です(相続財産清算人とは)。
財産の行き先は遺言書で決める
友人、お世話になった人、支援したい団体など、相続人以外に財産を渡したいときは遺言書が必要です。兄弟姉妹には遺留分がない(民法1042条)ため、相続人が兄弟姉妹や甥・姪だけの場合、遺言の内容がそのまま実現しやすいのも特徴です。
| 方式 | 特徴 | おひとりさまの視点 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 自分で書ける。法務局の保管制度を使えば紛失や改ざんの心配が減る | 保管場所を誰かに伝えておくか、法務局の保管制度を使う |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成し、証人2人以上が立ち会う(民法969条) | 方式の不備で無効になる心配が少ない |
公正証書遺言の手数料は財産の価額に応じて決まり、日本公証人連合会によると、目的の価額の合計が1億円までの場合は「遺言加算」として1万3000円が加算されます。おひとりさまの場合は特に、遺言で遺言執行者を指定しておくと(民法1006条)、相続人がいない、または疎遠でも手続きを進めてもらえます(公正証書遺言とは)。
判断力が落ちたときに備える:任意後見と見守り
認知症などで判断力が落ちると、預金の管理や施設との契約が自分でできなくなります。おひとりさまの場合、代わりに家庭裁判所へ申し立ててくれる家族がいないこともあります。元気なうちに、自分で選んだ人と任意後見契約を公正証書で結んでおけば、判断力が落ちたときに家庭裁判所が任意後見監督人を選び、その人に財産管理や介護契約などを任せられます。
日本公証人連合会によると、実務では、判断能力があるうちは財産管理などの委任契約で支援を受け、判断能力が落ちたら任意後見に移る「移行型」として、2つの契約を同時に結ぶことが多いとされています。普段の暮らしの見守りは、市区町村の地域包括支援センターに相談できます(任意後見契約の始め方、見守りサービス・地域包括支援センター)。
亡くなった後の手続きは死後事務委任で託す
遺言で決められるのは主に財産の行き先です。葬儀や火葬、役所への届出、医療費・施設利用料の支払い、賃貸住宅の明け渡しといった事務手続きは、遺言とは別に頼んでおく必要があります。その方法が死後事務委任契約です。委任契約は本来、委任者の死亡で終わる(民法653条)ため、死亡後も契約が終わらないことを明記しておくことが大切です。頼める内容と注意点は死後事務委任契約とはで詳しく解説しています。
終身サポート事業者を使うときの確認点
身元保証や日常生活の支援、死後事務をまとめて引き受ける「高齢者等終身サポート事業者」も増えています。国は2024年6月に関係省庁連名で「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を作り、事業者が守るべき点を示しました。利用する側も、次の点を確認すると判断しやすくなります。
- 契約書と重要事項説明書を受け取り、サービス内容と費用(入会金・預託金・都度の費用)を区分して説明してもらう
- 預託金が事業者の運営資金と区分して管理されるか
- 寄附や遺贈が契約の条件になっていないか(ガイドラインは条件にすることを避けるよう求めている)
- 解約の手順と、解約時の返金のルール
国民生活センターにも、契約内容を理解しないまま高額な契約をした、解約時の返金額に納得できないといった相談が寄せられています。厚生労働省のパンフレットは、どこに相談すればよいか分からないときは、契約の前にまず地域包括支援センターに相談するよう勧めています(身元保証サービスとは)。
財産と情報は「託す人がたどれる形」に
おひとりさまの場合、本人以外に財産の全体を知る人がいないことがほとんどです。遺言執行者や死後事務の受任者が実際に動けるように、次の情報を一覧にしておきます。
- 口座・証券・保険・不動産など財産の相手先の名前と書類の置き場所
- 遺言書、任意後見・死後事務委任の契約書の保管場所と、受任者の連絡先
- 葬儀・納骨の希望、知らせてほしい人
- ペットがいる場合の引き取り先
パスワードは書かず、在り処と希望を残すのが基本です。
よくある質問
疎遠な兄弟に財産が行くのは避けたいです。
兄弟姉妹には遺留分がないので、遺言で別の人や団体に全財産を渡すと決めておけば、原則としてその内容が優先されます。遺言執行者を指定しておくと、手続きも任せられます。
死後事務委任と遺言は両方必要ですか?
役割が違うため、両方そろえるのが一般的です。遺言は財産の行き先、死後事務委任は葬儀や解約などの手続きを担います。同じ人や専門家にまとめて頼むこともできます。
何から始めればいいですか?
まず自分の相続人を確認し、財産と契約の一覧を作ることです。それによって、遺言の内容や、誰に何を頼むかが決めやすくなります。相談先に迷うときは、市区町村の無料相談や地域包括支援センターを入口にできます。
まとめ:おひとりさまの終活は「場面ごとに頼む人」を決める
おひとりさまの終活では、判断力が落ちたとき(任意後見)、亡くなった直後(死後事務委任)、財産の行き先(遺言書)の3つを、それぞれ書面で備えることが柱になります。相続人がいなければ財産は清算を経て国庫に入るため、渡したい相手がいるなら遺言が欠かせません。事業者に頼むときは、ガイドラインの考え方に沿って、費用や預託金、解約の条件を確かめましょう。そして、託した人が動けるよう財産と情報を一覧にしておくことが、すべての土台です。
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の資料をもとにした一般的な解説で、特定の事業者やサービスを推奨するものではありません。相続人の範囲、遺言の内容、契約の要否は個別の事情で異なります。具体的な判断は専門家や公的な相談窓口にご確認ください。
e-Gov法令検索「民法」第653条・第889条・第951条・第958条の2・第959条・第969条・第1006条・第1042条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
裁判所「相続財産清算人の選任」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html
日本公証人連合会「4 任意後見契約」https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow04
日本公証人連合会「12 手数料」https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12
法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律」(第9条)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei15/
内閣官房ほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(令和6年6月)https://www.mhlw.go.jp/content/001262636.pdf
厚生労働省「『身元保証』や『お亡くなりになられた後』を支援するサービスの契約をお考えのみなさまへ」https://www.mhlw.go.jp/content/000390797.pdf
国民生活センター「身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意」https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20190530_1.html






