遺言・遺留分

遺言書がある場合の相続手続き|流れ・検認・執行者と協議の要否

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「父の遺品から遺言書が出てきた。開けていいの? このあと何をすればいい?」——遺言書があると、相続手続きの進め方が大きく変わります。結論から言うと、遺言書の種類を確かめて、必要なら家庭裁判所で検認を受け、遺言執行者がいればその人を中心に、遺言の内容どおりに名義変更を進めるのが基本の流れです。遺言で行き先が決まっている財産については、相続人全員で話し合う遺産分割協議はいりません。ただし、遺言に書かれていない財産がある場合や、遺留分の問題がある場合は話し合いが必要になることもあります。この記事では、遺言書がある場合の相続手続きを、見つけた直後から申告まで順番に整理します。

遺言書がある場合の相続手続き:全体の流れ

まず全体像です。遺言書がない場合との大きな違いは、②と④です。

順番 やること ポイント
① 遺言書の種類を確かめる 自筆か公正証書か、法務局に預けてあるか
② 必要なら家庭裁判所で検認を受ける 手元保管の自筆証書遺言などが対象
③ 遺言執行者の有無を確かめる いれば、その人が手続きの中心になる
④ 遺言の内容どおりに名義変更・払い戻し 遺言で決まった財産は協議不要
⑤ 遺言にない財産があれば遺産分割協議 その財産だけ相続人全員で話し合う
⑥ 相続税がかかる場合は申告・納税 知った日の翌日から10か月以内

あわせて、相続放棄(知った時から3か月以内)や相続登記の申請義務など、遺言の有無に関係なく進む期限もあります。遺言があるからといって、すべてが自動的に片づくわけではない点を押さえておきましょう。

遺言書の種類で最初にすることが変わる

種類ごとの検認の要否

遺言書の種類 検認 手続きに使うもの
自筆証書遺言(自宅などで保管) 必要 検認済証明書が付いた遺言書
自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用) 不要 法務局が交付する遺言書情報証明書
公正証書遺言 不要 公正証書の正本・謄本
秘密証書遺言 必要 検認済証明書が付いた遺言書

民法は、遺言書の保管者や発見した相続人に、相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求するよう定めています(公正証書遺言は対象外)。裁判所の案内では、法務局で保管されている自筆証書遺言について交付される遺言書情報証明書も、検認はいりません。

封がしてある遺言書は開けない封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立ち会いのもとでなければ開封できません。検認をせずに遺言を執行したり、家庭裁判所の外で開封したりすると、5万円以下の過料の対象になると民法に定められています。うっかり開けてしまっても遺言が無効になるわけではありませんが、そのまま検認を申し立ててください。

検認は、遺言書の形や日付・署名などをその日の状態で記録し、偽造や変造を防ぐための手続きです。遺言が有効か無効かを判断する手続きではありません。申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所で、費用は遺言書1通につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。検認のあと、手続きに使うための検認済証明書を申請します(遺言書1通につき150円分の収入印紙)。流れや必要書類は遺言書の検認の手続きで詳しく解説しています。

遺言書があるか分からないとき

自宅に見当たらなくても、公正証書遺言や法務局に預けた遺言がある場合があります。平成元年以降に作られた公正証書遺言は、相続人などの利害関係人が全国の公証役場で無料で検索を申し出られます。法務局の保管制度を使っていたかどうかも、法務局で確認できます。探し方は遺言書があるか分からないときの調べ方をご覧ください。

遺言執行者がいる場合・いない場合の進め方

遺言書を読んだら、「遺言執行者」が指定されているかを確かめます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために財産の管理や名義変更などを行う権限を持つ人です。

状況 手続きの進め方
遺言執行者が指定されている 執行者が就任を承諾したら任務を始め、遺言の内容を相続人に通知し、財産目録を作って交付する。名義変更などは執行者が中心になって進める
指定されていない 相続人や受遺者が自分たちで手続きする。必要なら家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てられる

遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産を処分するなど、遺言の執行を妨げる行為をすることができず、違反した行為は原則として無効になります。また、遺贈(相続人以外の人などに財産を渡すこと)の履行は遺言執行者だけが行えます。「遺言で相続人以外の人が財産を受け取る」「子の認知や相続人の廃除が書かれている」といった遺言では、執行者の役割が特に大きくなります。権限や選び方は遺言執行者とはで解説しています。

選任の申立て裁判所の案内では、遺言執行者の選任は相続人・遺言者の債権者・受遺者などの利害関係人が、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。費用は遺言書1通につき収入印紙800円分と郵便切手です。

遺言どおりに進める名義変更の手続き

遺言で行き先が決まっている財産は、遺言書(検認済証明書付き、遺言書情報証明書、または公正証書)を使って名義変更や払い戻しをします。遺産分割協議書や相続人全員の実印は、原則としていりません。これが遺言の大きな利点です。

不動産の相続登記

「自宅を長男に相続させる」のように、相続人に特定の財産を承継させる遺言(民法では「特定財産承継遺言」といいます)があれば、その不動産を受け取る相続人が登記を申請します。遺言執行者がいる場合は、執行者も登記に必要な手続きをすることができます。相続人に対する遺贈による所有権移転の登記も、現在の不動産登記法では受け取る人が単独で申請できます。一方、相続人以外の人への遺贈は、原則として遺言執行者(いなければ相続人全員)と受遺者が共同で申請します。ケース別の書類は相続登記の必要書類一覧にまとめています。

預貯金の払い戻し・解約

金融機関には、遺言書、亡くなった方の戸籍、受け取る人の印鑑証明書などを提出するのが一般的です。必要書類は金融機関ごとに違うため、事前に窓口へ確認しましょう。遺言執行者は、特定財産承継遺言の対象になった預貯金について、払い戻しの請求をすることができ、預貯金の全部が対象の場合は解約の申し入れもできます。流れは銀行口座の凍結と預貯金の相続手続きで解説しています。

登記を後回しにしない遺言で法定相続分を超える財産を受け取った場合、その超える部分は登記などの対抗要件を備えないと第三者に主張できないと民法に定められています。遺言があるからと安心せず、早めに名義変更を済ませましょう。

遺産分割協議が必要になる3つの場面

遺言があっても、相続人で話し合いが必要になることがあります。

  • 遺言に書かれていない財産がある:遺言の対象外の財産は、相続人全員で分け方を決めます。後から見つかった口座なども同じです。
  • 遺言が「財産の2分の1を長女に」など割合だけを決めている:具体的にどの財産を誰が取るかは、話し合いで決める必要があります。
  • 遺言と違う分け方をしたい:相続人全員(受遺者がいればその人も)の合意があれば、遺言と異なる分け方ができる場合があります。ただし遺言で分割が禁じられている場合や、遺言執行者がいる場合の扱いなど注意点があります。詳しくは遺言と異なる遺産分割をご覧ください。

なお、遺言を受け取る人が遺言者より先に亡くなっていた場合、その部分の遺言は効力を生じません。その財産は相続人全員の話し合いで分けることになるのが原則です。

遺言書があっても注意したい期限と遺留分

遺留分侵害額請求

兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の取り分である遺留分があります。遺言で特定の人に財産が偏っていると、遺留分を侵害された相続人は、多く受け取った人に対して侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈などがあったことを知った時から1年、相続開始から10年で消滅します。遺言どおりに手続きを終えた後でも請求されることがあるため、偏った遺言の場合は早めに関係者と向き合うことが大切です(遺留分とは)。

遺言があっても進む期限

手続き 期限の目安
相続放棄 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(家庭裁判所に申述)
相続税の申告・納税 亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内(相続税がかかる場合)
相続登記 相続の開始と不動産の取得を知った日から3年以内の申請義務(相続人への遺贈も同じ)

遺言で財産を受け取らないことになった相続人でも、借金などのマイナスの財産は法定相続分に応じて引き継ぐのが原則です。民法は、遺言で相続分が指定されていても、債権者は法定相続分に応じて各相続人に請求できると定めています。借金があるかもしれないときは、相続放棄の期限も意識しておきましょう。

よくある質問

遺言書を勝手に開けてしまいました。遺言は無効になりますか?

開封しただけで遺言が無効になるわけではありません。ただし、家庭裁判所の外で開封すると過料の対象になると定められています。開けてしまった場合も、そのまま家庭裁判所に検認を申し立ててください。

検認を受ければ、遺言は有効と認められたことになりますか?

なりません。検認は遺言書の状態を記録する手続きで、有効・無効を判断するものではないと裁判所も案内しています。遺言の有効性に疑問がある場合は、別に争うことになります。

遺言書が2通見つかりました。どちらに従えばいいですか?

内容が矛盾する部分は、後に作られた遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。矛盾しない部分は両方が生きている場合があります。日付と内容をよく照らし合わせ、判断に迷うときは専門家に相談しましょう。

遺言執行者が指定されていません。必ず選任が必要ですか?

必ずではありません。相続人どうしで協力して名義変更できるなら、選任しなくても手続きは進められます。相続人以外への遺贈で相続人の協力が得られない場合や、遺言で子の認知・相続人の廃除が定められている場合などは、選任を検討します。

まとめ:まず種類と執行者を確かめ、期限を並行して管理する

遺言書がある場合の相続手続きは、①遺言書の種類を確かめ、②手元保管の自筆証書遺言などは開封せずに検認を受け、③遺言執行者の有無を確認し、④遺言の内容どおりに名義変更を進める、という順番です。遺言で行き先が決まった財産は遺産分割協議がいりませんが、遺言にない財産や割合だけの指定は話し合いが必要です。遺留分の請求、相続放棄の3か月、相続税の10か月、相続登記の3年といった期限は遺言と関係なく進むので、並行して管理しましょう。

遺言書のあとも、手続きは続きます。

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※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の案内をもとにした一般的な解説です。遺言の有効性、必要書類、遺留分や税金の扱いは個別の事情で異なります。具体的な手続きは家庭裁判所・法務局・金融機関に、判断に迷う点は司法書士・税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。

参考にした公的情報・公式案内(2026年10月確認)
裁判所「遺言書の検認」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
裁判所「遺言執行者の選任」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_18/index.html
裁判所「相続の放棄の申述」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
法務省「自筆証書遺言書保管制度」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
日本公証人連合会「遺言」(Q&A:公正証書遺言の検索)https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
e-Gov法令検索「民法」第899条の2・第902条の2・第907条・第915条・第994条・第1004条〜第1014条・第1023条・第1042条・第1046条・第1048条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
e-Gov法令検索「不動産登記法」第60条・第63条・第76条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123

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