家族の話し合い

行方不明の相続人がいるとき|不在者財産管理人・失踪宣告の手続き

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「弟とは20年以上連絡が取れず、どこにいるのか分からない」——相続人の中に行方不明の人がいると、遺産分割が止まってしまいます。遺産分割は相続人全員で行う必要があり、連絡が取れないからといって、その人を除いて協議することはできません。結論から言うと、まず戸籍の附票などで所在を調べ、それでも見つからなければ、家庭裁判所で不在者財産管理人を選んでもらって代わりに協議に加わってもらうか、生死不明が7年以上続いていれば失踪宣告を申し立てます。この記事では、それぞれの要件・費用・流れと選び方を、裁判所の手続案内と条文をもとに整理します。

行方不明の相続人がいるときの進め方(結論)

状況 取る手段
住所が分かった・連絡がついた 通常どおり、その人を含めて遺産分割協議をする
住所は分かるが返事がない 行方不明ではない。手紙を重ね、まとまらなければ遺産分割調停を検討
調べても所在が分からない 不在者財産管理人を選任し、家庭裁判所の許可を得て協議に参加してもらう
生死不明が7年以上続いている 失踪宣告を申し立て、法律上死亡したものとみなす

まず所在を調べる

「行方不明」と思っていても、実際には住所をたどれることがよくあります。相続手続きでは亡くなった人の出生から死亡までの戸籍を集めますが、その過程で相続人の本籍も分かります。本籍地の市区町村で戸籍の附票(住所の移り変わりが記録されたもの)を取れば、現在の住民票上の住所が分かることがあります(相続の戸籍の集め方)。

住所が分かったら、手紙で、亡くなった事実、相続人であること、遺産の概要と協議への参加のお願いを伝えます。返事がない、話し合いを拒まれるという場合は「行方不明」ではないため、この記事の手続きではなく、家庭裁判所の遺産分割調停などで解決を図ります。疎遠な相続人への連絡の工夫は疎遠・絶縁の家族がいる相続で解説しています。

「不在者」とは裁判所の案内では、不在者財産管理人や失踪宣告の対象となる不在者を「従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者」と説明しています。住民票の住所に住んでおらず、手紙も戻ってくる、親族も居場所を知らない、といった事情を、申立ての際に「不在の事実を証する資料」として示します。

不在者財産管理人を選んで遺産分割する

不在者財産管理人は、行方不明の人に代わってその財産を管理する人です。民法25条にもとづき、利害関係人などの申立てで家庭裁判所が選任します。選ばれた管理人は、家庭裁判所の「権限外行為許可」を得たうえで、不在者に代わって遺産分割協議に参加できます。

申立ての概要

項目 内容(裁判所の案内より)
申立人 利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者など)、検察官
申立先 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所
費用 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手(裁判所ごとに異なる)
予納金 不在者の財産だけでは管理の費用(管理人の報酬を含む)が足りないおそれがあるとき、申立人が納めることがある
主な書類 申立書、不在者の戸籍謄本・戸籍附票、管理人候補者の住民票または戸籍附票、不在の事実を証する資料、不在者の財産に関する資料、利害関係を証する資料

選任から遺産分割までの流れ

  1. 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる(候補者を挙げることもできる)
  2. 家庭裁判所が管理人を選任する。資格は不要で、不在者との関係や利害関係の有無から適格性が判断され、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることもある
  3. 管理人が不在者の財産を調査し、財産目録などを家庭裁判所に提出する
  4. 遺産分割協議の内容がまとまったら、管理人が権限外行為許可を申し立てる(収入印紙800円分)
  5. 許可を得て、管理人が不在者に代わって協議書に署名・押印する
遺産分割が終わっても任務は続く裁判所の案内では、管理人の職務は、不在者が現れたとき、失踪宣告がされたとき、死亡が確認されたとき、財産がなくなったときなどまで続き、遺産分割など当初の目的を果たせば終わりというものではないとされています。また、管理人は不在者の財産を守るために選ばれる立場です。ほかの相続人に有利なだけの分け方には同意できないことを前提に、協議の内容を考える必要があります。報酬は、管理人の請求により、家庭裁判所の判断で不在者の財産から支払われます。

失踪宣告で「死亡したものとみなす」

生死不明の状態が長く続いている場合は、失踪宣告という方法もあります。失踪宣告がされると、その人は法律上死亡したものとみなされ、その人についての相続が始まります。婚姻していれば、婚姻関係も解消します。

種類 要件(民法30条) 死亡とみなされる時点(民法31条)
普通失踪 生死が7年間明らかでない 7年の期間が満了した時
危難失踪 戦争・船舶の沈没・震災など死亡の原因となる危難に遭い、危難が去った後1年間生死が明らかでない 危難が去った時

申立てから届出までの流れ

  1. 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所に申し立てる(申立人は配偶者、相続人にあたる者、財産管理人、受遺者などの利害関係人)。費用は収入印紙800円分と郵便切手
  2. 家庭裁判所調査官による調査が行われることが多い
  3. 官報などで、不在者に生存の届出を、生存を知る人にその届出をするよう催告する。期間は3か月以上(危難失踪は1か月以上)。官報公告料5,298円は裁判所の指示後に納める
  4. 期間内に届出がなければ失踪宣告の審判がされる
  5. 申立人は審判の確定から10日以内に、市区町村に失踪の届出をする(審判書謄本と確定証明書が必要)
「いつ死亡したとみなされるか」で相続人が変わる普通失踪では、行方不明になった時から7年が満了した時点で死亡したものとみなされます。その時点が、親など今回の被相続人が亡くなるより前なら、失踪者は今回の相続人にならず、失踪者に子がいればその子が代襲相続します。被相続人より後なら、失踪者はいったん相続人になり、その相続分を失踪者の相続人が引き継ぐことになります。

失踪宣告の後に本人の生存が分かった場合などは、本人や利害関係人の請求で宣告が取り消されます(民法32条)。取り消されても、宣告後・取消し前に事情を知らずにした行為の効力には影響せず、宣告で財産を得た人は、現に利益を受けている限度で返還すればよいとされています。

不在者財産管理人と失踪宣告、どちらを選ぶか

比較 不在者財産管理人 失踪宣告
使える場面 所在不明であれば、期間の要件はない 生死不明が7年(危難失踪は1年)続いている
行方不明者の扱い 生きている前提で、管理人が代わりに協議する 死亡したものとみなし、その人の相続が始まる
主な費用 収入印紙800円+切手、権限外行為許可の印紙800円、予納金がかかることも 収入印紙800円+切手、官報公告料5,298円
時間 選任と許可の2段階 催告期間だけで3か月以上
終わり方 遺産分割後も管理が続く 宣告が確定すれば、その後は失踪者の相続として整理

行方不明になってからの年数が短ければ不在者財産管理人、長期にわたって生死すら分からないなら失踪宣告、というのが一つの目安です。どちらが適切かは事情によって異なるため、家庭裁判所の手続案内や専門家に確認しましょう。

放置しないほうがよい理由

  • 相続登記の義務:不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務がある(不動産登記法76条の2)。協議がまとまらないときは相続人申告登記で義務を果たす方法もある
  • 相続税の申告期限:申告が必要な場合、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内。分割が決まらなくても期限は延びない(相続税の申告期限)
  • 10年の期限:相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなる(民法904条の3)
  • 相続の重なり:時間がたつと相続人が亡くなり、さらに相続人が増えていく

よくある質問

行方不明の相続人を除いて遺産分割をしたらどうなりますか?

相続人全員が参加していない遺産分割協議は、一般的に有効とは扱われません。登記や預金の解約でも、相続人全員の署名・実印と印鑑証明書が求められるため、手続き自体が進まないのが通常です。

行方不明の相続人の取り分はどうなりますか?

行方が分からなくても法定相続分は変わりません。不在者財産管理人は不在者の財産を守る立場で協議に加わり、協議の内容には家庭裁判所の許可も必要になるため、不在者の取り分をどうするかが大きなポイントになります。

遺言があれば、行方不明の相続人がいても手続きできますか?

遺言で財産ごとに取得する人が決まっていれば、その財産は遺産分割協議を経ずに手続きできる場合があります。遺言執行者がいると手続きを進めやすくなります(遺言書がある場合の相続手続き)。

専門家に頼むべきですか?

申立て自体は自分でもできますが、不在の事実の資料集めや協議書の案づくりなど、判断に迷う場面が多い手続きです。司法書士・弁護士などに相談すると、どの手続きを選ぶかから整理できます。

まとめ:まず所在調査、見つからなければ家庭裁判所の手続きへ

行方不明・音信不通の相続人がいても、その人を除いて遺産分割はできません。まず戸籍の附票などで所在を調べ、連絡がつけば通常どおり協議します。どうしても見つからなければ、不在者財産管理人を選任し、権限外行為許可を得て代わりに協議に加わってもらいます。生死不明が7年以上続いていれば失踪宣告も選択肢です。登記や相続税の期限、10年の期限もあるため、早めに動き出しましょう。

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※本記事は2026年10月時点の法令と裁判所の手続案内をもとにした一般的な解説です。必要な書類・郵便切手の額・予納金は裁判所や事案によって異なります。手続きの選択や具体的な判断は、家庭裁判所の窓口や司法書士・弁護士などの専門家にご確認ください。

参考にした公的情報・公式案内(2026年10月確認)
裁判所「不在者財産管理人選任」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html
裁判所「不在者財産管理人の権限外行為許可」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_25_10/index.html
裁判所「失踪宣告」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_06/index.html
裁判所「裁判手続 家事事件Q&A(不在者財産管理人・失踪宣告)」https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html
e-Gov法令検索「民法」第25条・第28条・第30条〜第32条・第904条の3 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
e-Gov法令検索「家事事件手続法」第148条 https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
e-Gov法令検索「不動産登記法」第76条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm

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