遺言・遺留分

自筆証書遺言の書き方|民法968条のルールと無効になりやすい例

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「費用をかけずに、自分の手で遺言を残したい」——そんなときに選ばれるのが自筆証書遺言です。紙とペンと印鑑があれば今日からでも作れますが、法律で決まった形式を一つでも外すと、遺言全体が無効になることがあります。結論から言うと、押さえるべき基本は「本文・日付・氏名を自分で手書きし、押印する」こと。財産目録だけはパソコンで作ったり、通帳のコピーを付けたりできますが、その場合は目録の全ページに署名と押印が必要です。この記事では、民法968条のルール、書き方の手順と文例、無効になりやすい例、書いた後の保管までを順に解説します。

自筆証書遺言の4つの必須ルール(民法968条)

民法968条1項は「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定めています。つまり、次の4つがそろって初めて有効な自筆証書遺言になります。

ルール ポイント
①全文を自書 本文はすべて本人の手書き。パソコン・ワープロ打ち、他人の代筆、録音・録画は不可
②日付を自書 「令和8年10月6日」のように年月日が特定できること。「○月吉日」は不可
③氏名を自書 戸籍どおりのフルネームで書くのが確実
④押印 法務省は認印でもよいとしつつ、スタンプ印(インク内蔵の印)は避けるよう案内。実印ならより確実

このほか、遺言は15歳以上で、遺言をする時に内容を理解し判断できる能力があることが前提です(民法961条・963条)。また、夫婦で1枚の遺言書に連名で書く「共同遺言」は禁止されています(民法975条)。夫婦それぞれが別の紙に書きましょう。

財産目録はパソコンで作ってもよい

2019年1月13日施行の相続法改正で、遺言書に付ける財産目録は自書しなくてよくなりました(民法968条2項)。財産の数が多い人にとって、負担が大きく減るルールです。

  • パソコンで一覧表を作る
  • 不動産の登記事項証明書のコピーを付ける
  • 預貯金通帳の表紙・見開き(銀行名・支店・口座番号が分かるページ)のコピーを付ける
目録の全ページに署名・押印手書きでない目録は、すべてのページに署名して押印が必要です。両面に印刷やコピーがある場合は両面ともです(民法968条2項)。また、手書き不要なのは「目録」だけで、「長男に別紙目録1の不動産を相続させる」といった本文は手書きで書きます。

自筆証書遺言の書き方5ステップ

ステップ1:財産と渡したい人を整理する

預貯金(銀行名・支店名・口座番号)、不動産(登記事項証明書の所在・地番・家屋番号)、株式・投資信託(証券会社名)など、財産を一覧にします。誰に何を渡すかを決める前に、配偶者・子・親には最低限の取り分である遺留分があることも確認しておきましょう(遺留分とは)。

ステップ2:下書きをする

いきなり清書せず、下書きで内容を固めます。財産は「自宅」ではなく、登記事項証明書の記載どおりに書くと特定があいまいになりません。

ステップ3:清書する

消えにくいボールペンや万年筆で書きます。法務局の保管制度を使う予定なら、A4・片面・決まった余白などの様式に合わせて書きましょう(自筆証書遺言書保管制度)。

ステップ4:日付・氏名を書いて押印する

書き終えた日の日付と氏名を書き、押印します。複数枚になったときは、法律上の決まりではありませんが、ページ番号を振ったり、つなぎ目に契印をしたりしておくと、差し替えの疑いを持たれにくくなります。

ステップ5:保管方法を決める

自宅で保管するか、法務局に預けるかを決めます。自宅保管なら封筒に入れて封をし、「遺言書在中」「開封せずに家庭裁判所で検認を受けること」と書いておくと、家族が戸惑わずに済みます。

文例(シンプルな遺言)

書き方の例遺言書

一 私は、私の所有する次の不動産を、妻○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
 所在 ○○市○○町○丁目/地番 ○番○/地目 宅地/地積 ○○.○○平方メートル
二 私は、私の名義の○○銀行○○支店の普通預金(口座番号○○○○○○○)を、長男○○○○(平成○年○月○日生)に相続させる。
三 その他一切の財産を、妻○○○○に相続させる。
四 遺言執行者として、長男○○○○を指定する。

令和○年○月○日
住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
遺言者 ○○○○ 印

「その他一切の財産」の条項を入れておくと、書き漏れた財産や後から見つかった財産の行き先で迷いにくくなります。手続きを担う遺言執行者を決めておくことも、家族の負担を減らす方法のひとつです。想いや理由を伝えたいときは、本文の後に付言事項として書き添えられます(付言事項の書き方)。

書き間違えたときの訂正方法

民法968条3項は、加除その他の変更について、①変更の場所を示し、②変更した旨を付記して、③その付記に署名し、④変更の場所に押印しなければ効力を生じないと定めています。

  • 訂正する文字に二重線を引き、近くに正しい文字を書く
  • 二重線の箇所に、遺言書に使ったのと同じ印鑑で押印する
  • 余白に「本行中○字削除○字加入」などと書き、そこに署名する

修正液や修正テープ、塗りつぶしは使いません。訂正の方式を間違えると、その変更は効力がなく、訂正前の内容として扱われることがあります。訂正が多くなる場合は、最初から書き直すほうが確実です。

無効・トラブルになりやすい例

例 なぜ問題か
本文をパソコンで作り、署名だけ手書き 全文の自書という要件を満たさない
日付が「令和8年10月吉日」 日付が特定できない。法務省も「吉日」は不可と案内
押印がない 現行の民法968条の要件を満たさない
手書きでない財産目録の一部のページに署名押印がない 目録の毎葉(両面なら両面)への署名押印が必要
夫婦連名で1通に書いた 共同遺言の禁止(民法975条)にあたる
家族が手を添えて書かせた・代筆した 自書とはいえない、本人の意思か疑われる
「自宅を長男に任せる」など、あいまいな表現 「相続させる」のか管理を頼むだけなのか争いになりやすい
認知症の診断後に書いた 書いた時点の遺言能力が争いになることがある

無効にはならなくても、財産の特定があいまいだと、銀行や法務局の手続きで使えないことがあります。不安がある場合は、書いたものを専門家に確認してもらうか、公証人が作成する公正証書遺言を検討しましょう。

書いた後の保管と、相続開始後の検認

保管方法 費用 家庭裁判所の検認 注意点
自宅・貸金庫など なし 必要 紛失・改ざん・見つからないおそれ
法務局の保管制度 3,900円 不要 本人が予約して出向く。様式の決まりあり

自宅で保管していた自筆証書遺言は、亡くなった後に家庭裁判所の検認を受けてから使います。封のある遺言書を家庭裁判所の外で開封すると、5万円以下の過料の対象になります(遺言書の検認)。書き直したくなったら、いつでも新しい遺言で撤回・変更できます(遺言書の書き換え・撤回)。

2026年の民法改正で押印は不要になる予定2026年6月に公布された改正民法では、自筆証書遺言と財産目録・訂正の押印を不要とし、署名だけでよいとする改正が盛り込まれています。施行は公布から1年以内に政令で定める日とされ、2026年10月時点の民法968条はまだ押印を求めています。施行前に書く遺言は、これまでどおり必ず押印しておきましょう。施行日や経過措置は法務省の案内で確認してください。

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶ?

自筆証書遺言は費用がかからず、思い立ったときに書けて、書き直しも簡単です。一方、形式の不備や内容のあいまいさで手続きに使えないリスクは自分で負うことになります。財産が多い、不動産が複数ある、相続人の関係が複雑、手書きが難しいといった場合は、公証人が関与する公正証書遺言が向いています(公正証書遺言とは)。遺言の種類全体の比較は遺言書の種類と効力をご覧ください。

よくある質問

財産目録だけパソコンで作ってもいいですか?

できます。民法968条2項により、目録は自書不要です。ただし、目録の全ページ(両面に記載があれば両面)に署名と押印が必要で、本文は手書きです。

印鑑は認印でもいいですか?

法務省は認印でも問題ないとしつつ、スタンプ印は避けるよう案内しています。本人が押したことを示しやすいよう、実印を使う人も多くいます。

鉛筆で書いてもいいですか?

鉛筆は消して書き換えられるおそれがあるため、避けたほうが安全です。法務局の保管制度では、ボールペンなど消えにくい筆記具を使うよう案内されています。

封筒に入れて封をしないと無効ですか?

封は有効要件ではありません。ただ、改ざんを防ぐ意味で封をする人が多く、封をした場合は家庭裁判所で開封することになります。

まとめ:手書き・日付・氏名・押印の4点と、保管方法をセットで

自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自分で手書きし、押印するのが基本です。財産目録はパソコンやコピーで作れますが、全ページへの署名押印が必要です。日付は「吉日」ではなく年月日を特定し、訂正は法律の方式どおりに。書いた後は、自宅保管なら検認が必要、法務局に預ければ検認不要です。2026年の改正で押印は不要になる予定ですが、施行前の今は押印を忘れないようにしましょう。

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※本記事は2026年10月時点の法令と法務省の公式案内をもとにした一般的な解説で、文例は書き方の一例です。遺言の有効性や内容の適否は個別の事情で異なります。具体的な内容は、公証役場や弁護士・司法書士などの専門家にご確認ください。

参考にした公的情報・公式案内(2026年10月確認)
e-Gov法令検索「民法」第961条・第963条・第968条・第975条・第1004条・第1005条(2026年6月公布の改正を含む改正履歴)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
法務省「自筆証書遺言書保管制度 遺言書の様式等」https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html
裁判所「遺言書の検認」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html

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