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「財産は生前に贈与したほうが得?それとも相続で渡したほうがいい?」——相続対策を考えると、必ず出てくる疑問です。結論から言うと、どちらが有利かは、財産の規模・種類・残された時間・家族の状況によって変わり、一律には決まりません。2024年からは暦年贈与の持ち戻し期間が段階的に7年へ延びるなど、ルールも変わっています。この記事では、個別の税額を計算するのではなく、「どちらが合うか」を考えるときの観点を国税庁の情報をもとに整理します。実際の判断は、財産全体を見たうえで税理士などの専門家と行ってください。
生前贈与と相続の違いを先に整理
| 項目 | 生前贈与 | 相続(遺贈を含む) |
|---|---|---|
| かかる税金 | 贈与税(受け取った人) | 相続税(財産を取得した人) |
| 非課税の基本 | 暦年課税は1年あたり110万円の基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数の基礎控除 |
| 税率の決まり方 | 1年間にもらった額から基礎控除を引いた額に、速算表の税率 | 遺産全体から基礎控除を引き、法定相続分で分けた額に速算表の税率 |
| 渡す相手とタイミング | 本人が生きているうちに、相手と時期を選べる | 亡くなった時点。分け方は遺言か遺産分割協議で決まる |
| 不動産を渡すときの税金 | 登録免許税は固定資産税評価額の2%、不動産取得税がかかる | 登録免許税は0.4%、不動産取得税は非課税 |
贈与の基本ルール(年110万円の考え方、贈与契約、記録の残し方)は生前贈与の基本で詳しく解説しています。
どちらが得かを考える7つの観点
観点1:そもそも相続税がかかるか
最初に確認したいのは、相続税がかかる規模かどうかです。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、遺産の総額がこれ以下なら相続税はかかりません(相続税の基礎控除)。相続税がかからない見込みなら、節税を目的に急いで贈与する理由は小さく、贈与税や不動産の登記費用のほうが負担になることもあります。贈与を考える理由は「税金」ではなく、「必要な時期に渡したい」「生活を支えたい」など別のところにあるかどうかを確かめましょう。
観点2:税率の構造の違い
贈与税と相続税の最高税率はどちらも55%ですが、税率が上がっていく金額の区切りが違います。国税庁の速算表では、親や祖父母から18歳以上の子・孫への贈与(特例税率)は、基礎控除後の額が4,500万円を超えると55%です。相続税は、法定相続分に応じた取得金額が6億円を超えると55%です。一度に大きな額を贈与すると、同じ額を相続で渡すより高い税率がかかりやすいのはこのためです。一方、相続税は遺産全体にかかるので、遺産が多いほど相続人一人ひとりの税率も上がります。生前に少しずつ移す方法が検討されるのは、この両方の税率の関係があるからです。
観点3:持ち戻し(加算)までの時間
暦年課税の贈与は、亡くなる前の一定期間内のものが相続財産に加算されます。2024年1月1日以後の贈与からは加算対象期間が相続開始前7年以内に延び、亡くなった日によって次のように段階的に移行します。
| 亡くなった日 | 加算対象期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内 |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から亡くなった日まで |
| 2031年1月1日以降 | 相続開始前7年以内 |
加算の対象になるのは、相続や遺贈などで財産を取得した人が受けた贈与です。贈与を続ける年数が見込めるかどうかで、効果は大きく変わります。経過措置と延長部分の100万円控除は暦年贈与の2024年改正で解説しています。
観点4:財産の性質(値上がり・収益)
相続時精算課税を選んだ贈与は、相続税の計算で贈与時の価額(2024年以後は年110万円の基礎控除を引いた残額)を加算します。値上がりが見込まれる財産や、家賃などの収益を生む財産は、早めに移すと、その後の値上がり分や収益が受け取った人の側に積み上がります。ただし、値下がりした場合も贈与時の価額で計算される点は注意が必要です。一度選ぶと暦年課税に戻れないなど、制度の特徴は相続時精算課税制度とはで確認してください。
観点5:相続でしか使えない特例があるか
相続のほうが有利になりやすい代表は、自宅などの土地の評価を最大80%減らせる小規模宅地等の特例です。国税庁は、相続時精算課税の贈与で取得した宅地等にはこの特例を使えないと明記しています(小規模宅地等の特例)。配偶者の税額軽減や、生命保険金の非課税枠も相続のときの制度です。自宅の土地のように相続時の特例が使える財産を、あえて生前に贈与するかどうかは慎重に比べる必要があります。
観点6:不動産なら登記と取得の税金
不動産を贈与で移すと、所有権移転登記の登録免許税は固定資産税評価額などの2%で、相続の0.4%より高くなります。さらに、不動産取得税は相続による取得には課されませんが(地方税法73条の7)、贈与による取得にはかかります。不動産の贈与は、贈与税だけでなくこうした費用も含めて考えましょう。
観点7:家族の公平と本人の生活
特定の子への多額の贈与は、相続のときに特別受益として、遺産分割で考慮されることがあります。税金で得をしても、家族の不公平感が残っては本末転倒です。また、贈与したお金は戻ってきません。本人の老後の生活費や介護費用を残せるかも、必ず確認したい点です。
観点ごとの「向きやすい」整理
ここまでの観点を、一般的な傾向としてまとめます。あくまで検討の出発点で、どちらかが必ず得になるという意味ではありません。
| 状況 | 生前贈与を検討する余地があるケース | 相続で渡すことを検討する余地があるケース |
|---|---|---|
| 財産の規模 | 相続税がかかる見込みで、遺産が多い | 基礎控除以下で相続税がかからない見込み |
| 時間 | 長い期間をかけて少しずつ移せる | 持ち戻し期間内に亡くなる可能性を考えると効果が小さい |
| 財産の種類 | 値上がり・収益が見込まれる財産、現金 | 小規模宅地等の特例が使える自宅の土地 |
| 目的 | 住宅取得や子育てなど、必要な時期に渡したい | 遺言で分け方を決めれば足りる |
贈与税の非課税特例と期限
目的が決まった贈与には、非課税の特例があります。期限があるものは、最新の状況を国税庁で確認してください。
- 住宅取得等資金の贈与:父母・祖父母からの住宅資金。省エネ等住宅は1,000万円、それ以外は500万円まで非課税。現行の制度は2026年12月31日までの贈与が対象です(住宅取得等資金の贈与の非課税)
- 結婚・子育て資金の一括贈与:金融機関との契約が必要。2027年3月31日までが対象です
- 教育資金の一括贈与:2026年3月31日で終了し、新たには使えません(すでに拠出した分は引き続き適用)
- 夫婦間の居住用不動産の贈与:婚姻期間20年以上なら、基礎控除とは別に最高2,000万円まで控除
また、扶養義務者から生活費や教育費として必要な都度受け取るお金で、通常必要と認められるものには、そもそも贈与税はかかりません。
よくある質問
毎年110万円ずつ贈与すれば、必ず得になりますか?
必ず得になるとは限りません。相続税がかからない規模なら効果はありませんし、持ち戻しの期間内に亡くなれば相続財産に加算されます。毎年同じ時期・同じ額という形にこだわるより、贈与契約書や振込の記録を残し、受け取った人が自分で管理することが大切です。
生前贈与と相続、併用はできますか?
できます。実際には「どちらか一方」ではなく、一部を生前に贈与し、残りを遺言で分ける組み合わせが一般的です。組み合わせ方で税金と家族の公平の両方が変わるため、財産の全体を一覧にしてから考えましょう。
どこに相談すればよいですか?
税額の試算や制度の選択は税理士、不動産の名義変更は司法書士が担当します。税務署の電話相談でも一般的な制度の説明は受けられます。贈与を始める前に、相続全体の見通しを立てておくと安心です。
まとめ:観点を並べて、家族に合う渡し方を選ぶ
生前贈与と相続のどちらが得かは、相続税がかかるか、税率の構造、持ち戻しまでの時間、財産の性質、相続でしか使えない特例、不動産の登記・取得の税金、家族の公平と本人の生活という観点で変わります。2024年の改正で暦年贈与の加算期間は7年に延びつつあり、「早めに・計画的に」の意味は大きくなりました。まずは財産と相続人を把握し、どの観点が自分の家に当てはまるかを整理したうえで、具体的な判断は税理士などの専門家と行いましょう。
※本記事は2026年10月時点の法令と国税庁の案内をもとにした一般的な解説で、個別の税額や有利・不利を示すものではありません。税制は毎年見直されます。実際の判断は財産の内容や家族の状況によって異なるため、税理士・税務署などにご確認ください。
国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
国税庁「No.4155 相続税の税率」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
国税庁「No.4152 相続税の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm
国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4510.htm
国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4511.htm
国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm
国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405.htm
国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
e-Gov法令検索「地方税法」第73条の7 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226






