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相続の相談というと「亡くなってからするもの」と思われがちです。けれども実際には、生前に相談しておくほうが、選べる対策が多く、本人の希望も形にしやすいのが大きな違いです。遺言を書く、贈与を計画的に進める、判断能力が衰えたときの備えを決めておく。こうした対策は、どれも本人が元気で、自分で判断できるうちにしかできません。この記事では、生前相談のメリット、元気なうちにしかできない対策、相談のきっかけと相談先、相談の前に準備しておきたいことを整理します。
相続の生前相談で得られる4つのメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 本人の意思を形にできる | 誰に何を残したいかを、遺言などの法的な形で残せる |
| 対策の選択肢が多い | 遺言・贈与・任意後見・財産の整理など、時間を使える対策を選べる |
| 家族の負担が軽くなる | 財産の在り処や希望が分かっていれば、相続後の調査や話し合いが短く済む |
| 相続税の見通しが立つ | 税金がかかりそうかを早めに知り、納税資金の準備を考えられる |
本人の意思を形にできる
相続が始まってからでは、本人の希望を確かめる方法がありません。「家は同居してくれた長女に」「お世話になった人にも少し残したい」といった希望は、遺言という形にしておかないと、法定相続分を基準にした話し合いで決まることになります。遺言で何ができるかは遺言でできること・できないことで整理しています。
家族の負担が軽くなる
相続が始まると、家族は財産の調査、戸籍の収集、遺産分割の話し合いを、期限を意識しながら進めることになります。相続放棄は3か月、相続税の申告は10か月という期限があるため、財産の全体が分からないと判断が遅れがちです。生前に相談して財産と希望を整理しておくことは、家族への大きな手助けになります。
元気なうちにしかできない相続対策
民法は、意思表示をしたときに意思能力がなかった法律行為を無効としています(民法3条の2)。遺言についても、遺言をする時にその能力を持っていなければならないと定めています(民法963条)。つまり、認知症などで判断能力が衰えると、遺言や契約という形での対策が難しくなります。代表的な対策は次のとおりです。
| 対策 | 概要 | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 遺言 | 財産の分け方や遺言執行者を決めておく。公正証書遺言は公証人が作成し、原本は公証役場で保管される | 公証役場、司法書士・弁護士・行政書士など |
| 生前贈与 | 暦年課税では1年間に受けた贈与のうち110万円の基礎控除を超える部分に贈与税がかかる | 税理士、税務署 |
| 任意後見契約 | 判断能力が十分なうちに、将来の後見人と任せる内容を公正証書で決めておく | 公証役場、司法書士・弁護士など |
| 家族信託(民事信託) | 信頼できる家族に財産の管理を託す契約。設計の自由度が高い分、契約内容の検討が欠かせない | 司法書士・弁護士など |
| 財産の整理 | 使っていない口座の解約、不動産の名義の確認、先代名義のままの土地の登記など | 金融機関、法務局、司法書士 |
判断能力が衰えたときの備えは認知症になる前の相続対策、任意後見の始め方は任意後見契約の始め方で詳しく解説しています。
生前相談はいつする?きっかけになる節目
「まだ元気だから」と先延ばしにしやすいのが生前の相談です。日にちの決まった期限がないぶん、次のような節目をきっかけにすると動きやすくなります。
- 定年退職や年金の受給開始で、収入と資産の形が変わったとき
- 子の独立・結婚、孫の誕生など、家族の形が変わったとき
- 自宅の売却や住み替え、実家をどうするか考え始めたとき
- 配偶者や親を見送り、自分の相続を意識したとき
- 病気や入院をきっかけに、もしものときの備えが気になったとき
遺言は、民法1022条によりいつでも方式に従って撤回・書き直しができます。「一度決めたら変えられない」と身構えず、今の希望で作り、状況が変わったら見直すという考え方で十分です。
目的別:生前相談の相談先
| 相談したいこと | 主な相談先 |
|---|---|
| 相続税がかかるか、贈与をどう進めるか | 税理士。一般的な制度の確認は国税庁の電話相談センター |
| 遺言の作り方 | 公証役場(相談は無料)、司法書士・弁護士・行政書士など |
| 不動産の名義や登記の整理 | 司法書士、法務局の登記手続案内 |
| 家族の間で意見の対立がありそう | 弁護士 |
| 何から手をつければいいか分からない | 市区町村の無料相談などの公的窓口 |
日本公証人連合会は、公正証書遺言についての相談はすべて無料と案内しています。専門家ごとの業務範囲の違いは相続の専門家の選び方にまとめています。生前と相続後の相談のタイミングの全体像は相続の相談はいつ・誰に?を参考にしてください。
生前相談の前に準備しておきたいこと
財産と家族のメモ
不動産(固定資産税の課税明細書)、預貯金の口座、証券口座、加入している保険、借入金などを一覧にし、相続人になる家族の顔ぶれを書き出しておきます。金額は大まかで構いません。ネット銀行やネット証券は家族が存在に気づきにくいので、口座の有無だけでも書き留めておくと役立ちます。
「どうしたいか」のメモ
自宅を誰に住み継いでほしいか、介護をしてくれている家族にどう報いたいか、といった希望を言葉にしておくと、専門家は手段を提案しやすくなります。
家族とどこまで共有するか
生前相談の内容をすべて家族に伝える必要はありませんが、遺言の有無や保管場所、財産の在り処を知らせておくと、相続後の手続きが進めやすくなります。話の切り出し方は親と相続の話をするにはで紹介しています。
よくある質問
財産が多くなくても生前相談は必要ですか?
相続税がかからない家庭でも、自宅しか大きな財産がない場合は分け方でもめやすいことがあります。税金の心配がなくても、遺言や財産の整理について一度相談しておく価値はあります。
子どもが親の代わりに相談してもいいですか?
一般的な情報を聞くことはできます。ただし遺言や任意後見契約は本人の意思で行うものなので、実際の対策を進める段階では本人が相談に加わることが欠かせません。
夫婦で一緒に相談したほうがいいですか?
一緒に相談すると、どちらが先に亡くなった場合も含めて家族全体の見通しを立てやすくなります。ただし民法975条により、遺言は2人以上が同じ証書ですることができないため、夫婦でも遺言は一人ずつ作ります。お互いの遺言の内容をそろえておきたい場合も、それぞれの遺言書として作成しましょう。
生前相談をしたら、その専門家に依頼しなければいけませんか?
いいえ。相談と依頼は別です。見積もりや進め方を聞いたうえで、依頼するかどうかを決めて構いません。複数の相談先で話を聞いて比べるのも一つの方法です。
まとめ
相続の生前相談には、本人の意思を形にできる、対策の選択肢が多い、家族の負担が軽くなる、相続税の見通しが立つというメリットがあります。遺言や任意後見契約、計画的な贈与は、本人に判断能力があるうちにしかできない対策です。期限がないぶん、定年や家族の変化といった節目をきっかけに、まずは財産と希望のメモを作って相談してみましょう。遺言は後から書き直せるので、完璧を目指さず、今の希望から形にしていけば十分です。
※本記事は2026年10月時点の法令と公的機関の公式案内をもとにした一般的な解説です。どの対策が合うか、税金がいくらになるかは、財産の内容や家族の状況で異なります。具体的な判断は各専門家や公的な相談窓口にご確認ください。
e-Gov法令検索「民法」第3条の2・第963条・第969条・第975条・第1022条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
日本公証人連合会「遺言」https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
裁判所「相続の放棄の申述」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html






