相続の準備・終活

生前贈与の基本|年110万円の非課税枠・やり方と注意点

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元気なうちに、子や孫に財産を渡しておきたい——そう考えたときに出てくるのが「生前贈与」です。結論から言うと、受け取る人1人につき1年間に110万円までの贈与なら贈与税はかからず、申告も不要です(暦年課税)。ただし、亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に足し戻されること、形だけの贈与は「名義預金」として否定されることなど、知らないと効果がなくなる注意点もあります。この記事では、生前贈与のしくみ、正しいやり方、使える特例を、国税庁の情報をもとに整理します。

生前贈与とは:贈与は「あげる」「もらう」の契約

民法上、贈与は、一方が財産を無償で与える意思を示し、相手が受け入れることで成立する契約です(民法549条)。つまり、受け取る側が「もらった」と認識していることが前提です。口頭でも成立しますが、書面によらない贈与は、まだ渡していない部分について各当事者が解除できます(民法550条)。

贈与税は、財産を受け取った人が納める税金です。課税のしかたには「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件を満たせば精算課税を選べます。

暦年課税 相続時精算課税
非課税になる額 年110万円(基礎控除) 年110万円の基礎控除+累計2,500万円の特別控除
相続のときの扱い 相続などで財産を取得した人は、相続開始前の一定期間の贈与を加算 基礎控除を引いた後の贈与額をすべて相続財産に加算
使える人 制限なし 原則60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の子・孫などへの贈与
選択の手続き 不要 贈与者ごとに届出が必要。一度選ぶと、その贈与者からの贈与は暦年課税に戻れない

精算課税のしくみと向き・不向きは相続時精算課税制度で詳しく解説しています。ここからは、多くの人が使う暦年課税を中心に見ていきます。

年110万円の基礎控除と贈与税の計算

暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計から、基礎控除110万円を差し引いた残りに贈与税がかかります。ポイントは次の3つです。

  • 受け取る人ごとに計算する:父と母の両方から受け取った場合は、合計額から110万円を引きます
  • 合計110万円以下なら申告不要
  • 超えたら翌年2月1日〜3月15日に申告と納税:受け取った人が、住所地の税務署に申告します

税率は、父母や祖父母から18歳以上(贈与の年の1月1日時点)の子や孫への贈与に使う「特例税率」と、それ以外の「一般税率」に分かれます。国税庁の計算例では、500万円の贈与を受けた場合の贈与税は次のとおりです。

ケース 計算(目安) 贈与税額
18歳以上の子が親から受け取る(特例税率) (500万円−110万円)×15%−10万円 48.5万円
兄弟間・夫婦間など(一般税率) (500万円−110万円)×20%−25万円 53万円

実際の税額は、ほかの贈与の有無や特例の適用で変わります。申告が必要かどうか迷うときは、税務署に確認してください。

そもそも贈与税がかからないお金

家族の間のお金のやりとりがすべて贈与税の対象になるわけではありません。国税庁は、次のようなものには贈与税がかからないとしています。

  • 夫婦や親子などの扶養義務者から、生活費や教育費として必要なつど直接充てるために受け取ったもので、通常必要と認められるもの
  • 社会通念上相当と認められる香典、お祝い、お見舞いなど
「生活費の名目」でも預金すれば課税対象生活費や教育費の名目でまとめて受け取っても、それを預金したり、株や不動産の購入資金に充てたりした場合は、贈与税がかかります。非課税になるのは、必要なときに必要な分を直接充てる場合に限られます。

亡くなる前の贈与は相続財産に加算される

暦年課税の贈与でも、相続や遺贈などで財産を取得した人が、亡くなった人から一定期間内に受けた贈与は、相続税の計算で足し戻されます。2023年度の税制改正で、2024年1月1日以後の贈与からこの期間が3年から7年に延びました。

亡くなった日 加算される贈与の期間
〜2026年12月31日 相続開始前3年以内
2027年1月1日〜2030年12月31日 2024年1月1日から亡くなった日まで
2031年1月1日〜 相続開始前7年以内

加算の対象期間内の贈与は、110万円以下で贈与税がかからなかった分も加算されます(加算された分にかかった贈与税は相続税から差し引かれます)。一方、相続や遺贈で財産を取得しない孫などへの贈与は、原則としてこの加算の対象外です。改正の詳しい内容は暦年贈与と2024年改正で解説しています。孫への渡し方の比較は孫に財産を残す方法もあわせてご覧ください。

失敗しない生前贈与のやり方

生前贈与でよくある失敗は、「贈与したつもり」が税務上は贈与と認められないことです。次の手順を意識しましょう。

  1. 贈与契約書をつくる:誰が、誰に、いつ、何を、いくら贈与するかを書き、双方が署名します。書面にしておくと、贈与の事実と時期を説明しやすくなります。
  2. 受け取る人の口座に振り込む:現金手渡しより、記録が残る振込が確実です。
  3. 通帳や印鑑は受け取った人が管理する:渡した後も親が通帳を持ち、自由に使える状態だと、贈与とは言いにくくなります。
  4. 110万円を超えたら期限内に申告する:申告書の控えも贈与の証拠になります。
  5. 記録を保管する:契約書、振込の記録、申告書の控えをまとめて残します。
名義預金と定期贈与に注意子や孫の名義の口座にお金を積み立てていても、本人が知らず、親が管理していれば、実質的には親の財産として相続財産に含められることがあります。これがいわゆる「名義預金」です(名義預金とは)。また国税庁は、たとえば「毎年100万円ずつ10年間贈与する」ことを最初に約束していた場合は、約束した年に、10年分の給付を受ける権利(定期金に関する権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかるとしています。毎年その都度、贈与の契約を結んで実行することが大切です。

生前贈与で使える主な特例と期限

目的が決まっている贈与には、基礎控除とは別の非課税枠があります。期限つきのものが多いので、使う前に最新の情報を確認しましょう。

特例 内容 期限など(2026年10月時点)
住宅取得等資金の贈与 父母・祖父母からの住宅資金。省エネ等住宅は1,000万円、それ以外は500万円まで非課税 2026年12月31日までの贈与が対象
結婚・子育て資金の一括贈与 18歳以上50歳未満の子や孫へ、金融機関を通じて1,000万円まで非課税 2027年3月31日まで
教育資金の一括贈与 30歳未満の子や孫へ、金融機関を通じて1,500万円まで非課税 2026年3月31日で終了。新たな適用は受けられない
贈与税の配偶者控除 婚姻期間20年以上の夫婦間で、自宅やその購入資金を最高2,000万円まで控除 同じ配偶者からは一生に一度

住宅資金の特例は申告が必要で、細かな要件があります(住宅取得等資金の贈与)。どの特例も、使えるかどうかは個別に判断が必要なため、税務署や税理士に確認してください。

生前贈与と家族の公平

税金とは別に、贈与は相続のときの家族の公平にも関わります。結婚や住宅購入など「生計の資本」としての贈与は、相続の分け方で「特別受益」として考慮されることがあり、相続人への贈与は、相続開始前10年以内の一定のものが遺留分の計算にも含まれます(民法1044条)。特定の子にだけ贈与するなら、ほかの家族への説明や記録を残しておくと、後の不公平感を和らげられます(特別受益とは)。

よくある質問

110万円以下の贈与でも契約書は必要ですか?

法律上の義務はありませんが、贈与の事実と時期を説明できるよう、作っておくと安心です。とくに毎年贈与する場合は、その年ごとに作ると、最初から約束していた定期贈与と区別しやすくなります。

夫婦や親子で110万円ずつ贈与すれば、2人分非課税になりますか?

基礎控除は受け取る人ごとに年110万円です。父と母から同じ年に受け取ったら、合計から110万円を引きます。逆に、1人の親が子2人に110万円ずつ贈与するなら、それぞれの子が基礎控除の範囲内です。

生前贈与と相続、どちらが得ですか?

相続税がかかるかどうか、財産の内容、贈与を受ける人の数や期間で変わります。一概には言えないため、判断の考え方は生前贈与と相続どちらが得?を参考に、具体的には税理士に相談してください。

贈与税の申告を忘れたらどうなりますか?

期限後でも申告はできますが、無申告加算税や延滞税がかかることがあります。気づいた時点で、早めに税務署に相談しましょう。

まとめ:生前贈与は「早めに・記録を残して・家族に説明」

生前贈与は、受け取る人1人につき年110万円までなら贈与税がかからず、計画的に財産を渡せる方法です。ただし、相続などで財産を取得する人への贈与は、2024年以後の分について最長7年分が相続財産に足し戻されます。贈与契約書と振込の記録を残し、受け取った人が自分で管理すること。住宅資金などの特例は期限を確認すること。そして、家族の公平にも目を配ること。この3点を押さえて、無理のない範囲で進めましょう。

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※本記事は2026年10月時点の法令と国税庁の公表情報をもとにした一般的な解説です。計算例は国税庁の例にもとづく目安で、実際の税額や特例の適用可否は個別の事情で異なります。具体的な判断は税務署や税理士にご確認ください。

参考にした公的情報・公式案内(2026年10月確認)
国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合 Q&A(毎年、基礎控除額以下の贈与を受けた場合)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402_qa.htm
国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405.htm
国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm
国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4510.htm
国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4511.htm
国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm
e-Gov法令検索「民法」第549条・第550条・第903条・第1044条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

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